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70.宝珠の夢(最終回+後書き)

4人はいつものように待ち合わせをして落ち合うと、郊外にあるカトリーヌが葬られているという霊園に赴く。
郊外とはいえ、交通の便の良いところにあるその墓地は、交通機関を乗り継ぎ小1時間もかかる事無く辿り着く事が出来た。
木々に覆われた高台にあるその墓地は、雑音などない閑静な場所に位置していた。

管理人など在住していないこの霊園では、カトリーヌの墓標を探すのは一苦労かと思えたが、一角にだけジャスミンが植樹されているところがあったので、4人はそれをすぐに見付ける事が出来た。
カトリーヌも生前、その花が、その花の香りが、好きだったのかもしれない。

だから、竜の住まう泉にも、ジャスミンがああして咲き乱れていたのかもしれない!

4人はあの時その香りに誘われたように、まさに今もそれに誘われるがまま、カトリーヌの墓標に辿り着く。
ひっそりと静まり返ったカトリーヌの墓標の前に膝を付くと、用意してきた花と本を捧げる。
カトリーヌと4人とでは信仰する宗教も異ったようで、その正式な流儀は分からないものの、手を合わせ一心に祈りを捧げる。

果たして、カトリーヌがその物語で、世の中の人々に伝えたかった事は何だったのか?

考古学という分野を専攻し、中でも取り分け古墳時代をその研究テーマに選んでいた彼女は、昔の君主達の死を世間一般の人々よりも身近なところで常に触れ合ってきた。
栄枯盛衰!
本来ならそれが極自然な事ではあるが、どの君主達も生前の華やかな人生を、自らが死去した後になってもいつまでも望んでいる。

人間ゆえの欲・・・。人間ゆえの愚かさ・・・。

だが、どんな君主たちでさえ、”神“に生かされているに過ぎない存在だ!
永遠に続く生も、栄華も、ありはしない!

だが、彼らは自らが埋葬される古墳に、死後の世界でも自らに使える供の者達を生きながらにして共に葬り、信仰する思想に準じたものを多く施した。
彼女が専攻した古墳に描かれた四神思想の壁画も、そうした君主達の栄華や不老不死の憧れを反映するものだったのかもしれない。

だが、君主にまで登り詰めたとしても、彼らも根本的には我らと変わらぬ同じ愚かな“人間”の一人だ。
だから、カトリーヌはあの夢物語を通して、不平等な世の中や自然の摂理に逆らうような不毛さを打ち壊す事で、人間が人間らしく生きて行く事の大切さを、皆に示したかったのかもしれない。
そんな彼女のメッセージを感じずにはいられない!

だが、カトリーヌは何故自分達を選び、その先を托したのだろうか?

案外、そこは単純な理由からなのかもしれない。
けれども、今となっては、それも分からない事の一つだ!
とはいえ、彼女の思念によって選ばれ、出来た縁の数々は価値のあるものだ!
全てが終わった今でも、自分達には今でも大切な“絆“が残っている。

かけがえのない仲間・・・。
そして、泉希にとっては唯一無二の思い人! 高波・・・。

だが、これからはカトリーヌの思念に左右されるのではなく、自分達の手でそれぞれの人生の道を切り開き、またそれぞれの人間関係を形成していく事となる筈だ!
そして、そこにはもはや“高波の存在”は欠かす事の出来ないものになっている!
もちろん、それは泉希だけでなく、高波、そして宝や茉莉緒達も、同感とするところに違いない!

そんなふうに思ったところで、はたと傍らの高波と目が合う。
泉希の心の内の事なんて分かる筈もなのに、何故かこの時! 高波にその想いが伝わったように思えた。
その証拠に、高波が泉希に向かって微笑んでくる。

終わりじゃない! これからも共に・・・。

高波の瞳は、そう語りかけているようだった。
だから、泉希は“よろしく”とばかりに右手を差出す。
すると、高波はそれに応えて、そっとその手を受け取り、強く握り返してくる。
高波の手は、温かくも心強い大きな手だった。
そして、もう一度互いの顔を見合わせ、二人は微笑合う。

よろしくお願いします!

そして、二人は共に人生の再スタートを切った!
そんなやり取りを遠くから見ていた茉莉緒達は、“若いな、見てられないぜ!“とばかりに、そそくさと先に墓標を後にする。
とはいえ、その背中は、大人である分照れ臭くて真似出来ないという、ひた隠しの痩せ我慢を匂わせている。

現に、春を迎えて、泉希達が学年を一つずつ上げたのと同様に、茉莉緒は大学を卒業して社会人となったばかりだ。
だから、二人のように素直にはいかない。しかも、茉莉緒のパートナーである宝は更に上なのだから、尚更だ!

とはいえ、寄り添って階段を下りていく茉莉緒達の纏っている周りの空気も、穏やかながらもしっかりとした調和を保っている。
心を許し合っているからこそ、出来上がる気だ!

そして、ようやくの事! 泉希と高波もカトリーヌに別れを告げると、慌ててその後を追って、墓地の外へと続く階段を下りていくのだった。



     終わり




本当に長い間この作品にお付き合い下さった皆様! ありがとうございました!

お時間がある方は、追記欄の「後書き」も御覧くだされば幸いです!
また、最終回にてコメント欄を一応開けさせて頂きます!

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69.宝珠の夢(ラス2)

・・・終わった。

あの言葉と共に白みゆく世界から、泉希達は現実の世界へと戻ってきた。
だが、今回の帰還は特別だ! 今までとは異なり、あの世界にお別れしてきたのだから、もうあそこへは戻る事はおそらくない!

そして、この帰還は泉希だけでなく、当然高波達もそれぞれにこちらの世界へと同様に舞い戻って来た。
面会謝絶となり、ベットの上で治療を受け続けていた彼らの意識が、何事も無く突然戻った事は、家族をはじめ医療関係者に於いて驚きであり、喜ばしい事であったに違いない。
そして、病院のベットでぴんぴんと元気を取り戻した彼らは、2,3日の精密検査の末に無事退院となったのだった。

泉希も、それぞれのところにお見舞いに出向いたが、本当に誰もがいつもどおりの元気さで、ほっと胸を撫で下ろす事が出来て本当に良かったと思えたくらいだった。
とはいえ、そんな元気を取り戻した彼らも、“要受診”という事で、1週間後その経過を診るために内科を受診する事になった。

というのも、結局精密検査をしたとはいえ、そうなった原因が不明のままだったからだ。
そうとはいえ、病院側としては診断を下さないわけにはいかないため、“過労”という病名に相成ったものの、そうした理由からもこの“要受診”は外せなかったのに違いない。

だが、その本当の理由を周りに言うわけにはいかない!

なんせ現実世界で気を失う程のダメージを受ける事になった原因は、夢の世界での出来事にあったのだから、そんな非現実的な理由など信じてもらいようがなかった。
けれども、それはそれぞれの胸の内にあれば良い事だ!

だから、今もその本当の理由は、4人の心の中にだけ締まってある。

そして、高波をはじめ倒れる事になった3人は、仕事が忙しかろうが、学校が忙しかろうが、その診療を受けざるを得なくなったが、それぞれ甘んじて受診したようだった。
とはいえ、そんな煩わしさも苦にはならなかったに違いない。
なんせ自分達は使命を無事果たす事が出来たのだから、他に言う事なんて何もない筈なのだ!

それ程、長きに渡り見続けていた夢からやっと目覚める事が出来て、肩の重荷も下りたのだった。

それでも、あの夢を今ではとんと見なくなってしまったものの、あの世界の事を決して忘れた訳ではない!
ふとした拍子に、思いを馳せる事もまだまだ良くある。

4人がいなくなってしまった今、果たしてあちらの世界はどうなっているのだろうか?
今では滞る事無く時を刻み、正常に移り変わっているのだろうか?
そして、そうなっている事に違いなかった!

また、“自然の摂理”を取り戻したあの世界は、いくつか見られた不自然ともいえるひずみや歪みも無くなっている筈なのだ。
おそらく、不老に苦しむような人間はもういない!
いや、能力の有無や差自体が、無くなっているかもしれない!
そして、あの世界に住まう人々の不遇な運命も・・・・・。

全ての人が幸せに過ごしていると、信じたい・・・。

いや、そうなっていると、確信している。
そのために自分達は選ばれ、青竜の世界を終わらせてきたのだから!!!
そうなっていないなら、自分達がしてきた事は無意味だ!

だが、今となっては、それがカトリーヌから自分達4人に託されたものであったかどうかも、分からない。
とはいえ、そうだと信じたければ、現実の世界に戻ってきた自分達には彼女のためにもう一つしてあげられる事があると考えている!

それは、物語を完結出来なかったカトリーヌの無念を晴らす事!

つまりは、その続きを書き綴って、物語を完結させてやる事なのだが、自分達は小説家ではないから、本当のところはそれがどれ程無念な事なのかは分かりようがない。
けれども、何事に於いても、中途半端に終わった事に対してはいつまでもわだかまりが残る! だから、推測でしかないが、カトリーヌがこの物語を執筆している最中に、“死”という人間の力ではままならぬ事によって、断念せざるを得なかったのは、心残りの事として彼女の思念をいつまでもこの世に残す結果となったに違いない!

だから、自分達は彼女のために、代行してその物語を最後まで書き上げてやりたいのだ!

だが、そうは言っても、理系の高波や茉莉緒等には、明らかにこの作業は不得意分野で荷が重い!
そんな苦難を強いられる姿が簡単に想像出来た上に、一人が請け負って書いた方が不具合なく書けるだろうと、司書でもあり文系方面に造詣が深い宝が一手に引き受けてくれたのだった。

だから、泉希を含め宝の他3人が実質的に行ったのは、その執筆の手助けとなる夢の世界で体験した事の列記と、宝の書いた分に相違はないかという確認を兼ねた推敲だった。
そして、自費出版をするにあたっての入稿や受取の手助けなんかも果たした。
もちろん! 自費出版するからには、その出版費用についても、自分のお小遣いから出せる範囲で用立てした。

何より、自分にとっても、思い出の1冊だからだ!

はじめ、宝は稼ぎのまだない泉希や高波については、“無理しなくとも良い”と受け取らない方向だったのだが、泉希達の気持ちを汲んでそれに混ぜてくれた。
非力とはいえ、本当にそれくらいはしたかった。だから、意を汲んでもらえた事は、本当に嬉しい事だった。

そして、夢の世界での事が終結してから、半年の上が経った今日!
カトリーヌの命日も間近に控え、何とかそれに完成を間に合わせられた事から、泉希達はその本をカトリーヌの墓標に供えにいく事になっている。

カトリーヌも、草葉の陰から、悦びの笑みを浮かべるに違いない!




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68.宝珠の夢

4人は、竜神に歓迎された事にほっと胸を撫で下ろす。
イセリーニエが竜神の手を取ると、竜神はイセリーニエに向かって、にっこりとした屈託のない笑みを返した。

目と目を合わせる。ただそれだけでも、竜神にイセリーニエの想いが伝わっていくようだった。

・・・自分達はこの世界の時間を動かしに来たんだと。
・・・そのためには、竜神の力が必要なのだと。
・・・だから、決して竜神を悪いようにはしないのだと。

だから、イセリーニエがまだ何も話さぬ内から、竜神は全てを把握したようだった。
そもそも竜神自身、この世界から放たれたいと、それを導いてくれる者をずっと待ち望んでいた。それが、今! 目の前にこの者だと確信したのだった。
竜神は力強く首を縦に振って、答える。

竜神はイセリーニエの手を解くと、泉に向かってその手を広げる。
そして、息を大きく吸い込んだかと思うと、水面に向かって一息吹きかける。
すると、不思議な事に水が左右に分れ、水中の祠に向かって一直線の道が開ける。
更に竜神はその両手を自らに向かって一仰ぎさせる。
今度は、祠の中から吸い寄せられるようにして、“宝珠”がこちらに向かって飛んでくる。

青竜の髪と同じ、透明感のある翡翠色の光の珠だった。

そして、竜神はイセリーニエの手にしかとそれを握らせた。
すると、宝珠が生命力溢れる煌めきを放つ。
その煌めきだけでさえ凄まじき力があるようで、生命あるもの全てが一挙に成長を遂げる。

やはりこの珠には、この世界を動かす程の破格の力が宿っているに違いない!

だが、もしイセリーニエが運命(サダメ)の主でなかったならば、この程の力ある宝珠を扱いきれなかったに違いない。
おそらく一瞬にして身を焦がされたに違いない。
端から、邪な輩には触れられぬものだったのだ。

そして、今! イセリーニエの手にそれが馴染んでいるという事は、宝珠自体もイセリーニエを主だと認めた証なのだった。

不思議な事に、その宝珠に触れた事で、イセリーニエの脳裏に深層に閉じ込められていたある言葉が突如としてはっきりと浮び上がってきた。
それこそ、選ばれし者として、創造主“神”が知らぬ間に授けたものだった。

やはり! イセリーニエはまさしく“選ばれし者”で、来るべくしてここにはやって来たのだ!

竜神が再び人懐っこい笑みを浮かべる。顔中の筋肉を綻ばしたそれは、何とも無邪気だ。
ああ、動かしてくれというのだな?
お前も長い間この世界に縛り付けられ、実に大変な思いをしてきたな?
これで、やっとお役御免となれるな・・・。
イセリーニエは竜神の気持ちをくみ取ると、竜神に負けず劣らずの満面の笑みを浮かべる。
目の前にいる竜神は実に嬉しそうだ。今は人型を取っているものの、喉を鳴らし、あの可愛らしいキュウという声を上げているようだった。

イセリーニエは宝珠に導かれるまま、天に高々と翳す!
「時よ、動け! 朱夏の世界へと、いざ!!!」
それはこの世界では聞きなれぬ異国の言葉だったが、ここにいる誰もが一言一句までその意味が良く伝わってきた。

ああ、世界が動く・・・。

その発した言葉が次々と形になって現れ、宝珠の中へと吸い込まれていく。
すると、宝珠の光が膨張し、辺り一面光で覆い尽くす。
先程までイセリーニエを模した人型を取っていた竜神はその光に包まれ、再び姿を朱色の羽根を纏った一羽の“鳳凰”へと変える。

まさに、青竜の次の世界“朱雀の世界”の幕開けなのだった。

竜神が姿を変えた鳳凰は、4人の周りをゆるりゆるりと円を描き羽ばたく。
まるで4人に“お礼”を告げているかのようだった。
それに4人が微笑み返すと、朱雀は力強く羽根を一振り二振り羽ばたかせて、天高く舞い上がっていく。

そのまま朱雀の方角である南の空に向かって羽ばたくと、あっと言う間にその姿は視界から小さくなっていく。
たちどころに南の空を覆っていた雲が退いて、その中央に異世界を繋ぐ異空の穴が出現する。

ああ、あそこが次の世界の入り口なのだな・・・。

鳳凰は4人との別れを名残惜しむかのように、その周りを2、3くるり、くるりと舞うと、その中へと吸い込まれていく。
その代わりに、その穴からキラキラトした光が大量にこの地に降り注いでくる。そして、赤く赤くこの世界に全体を包み込んでいく。
それは夏のように熱い空気を孕んでおり、サンサンとした太陽の眩しい光のようだった。

そして、大地がドクドクと脈打つ。
それは生きた人間の心音のような、温かい鼓動だった。

「時が・・、動いた・・・・」

まさに、今! あの四神伝説通りに、春から夏、東から南、竜から鳳凰・・・。
“青春”から“朱夏”の時代へと世界が移行した。

「ああ、終わった・・・・・」

イセの感慨の籠った呟きが漏れる。
それは皆に共通する思いだった。
やっと自分達も、この重き宿命から解放されたのだった。
そして、その言葉と共に朱雀のもたらした陽射しがまた一段強くなると、辺りが次第に白らんで、夢の世界からフェイドアウトしていくのだった。

   * * *




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67.宝珠の夢

泉希が何の手立てもせずに眠りについたというのに、その強い思念の影響からか、ミュルゼンはふと思い立って行動に移す。
しかも、今のミュルゼンは、かつてのミュルゼンとは一味もふた味も異なる!
“愛を知って、強くなる!” ・・・そうして、心の強くなった者だ!
だから、たとえ一人でも立ち上がる。

いや、一人だからこそ!! 何が何ても立ち上がるのだ!

ミュルゼンは、地にとぐろを巻きのさばる竜の元へと踏み出すと、両手を目一杯に広げ竜の首目掛けて飛び上がる。

純粋無垢である竜には、明鏡止水な心で・・・。

ミュルゼンはその両手だけではなく、自らの心を開いて接する。
もし竜が自分達の到来で心が不安定となっているのであるならば、自分は慈愛に満ちる母のような心持ちで、そのか細くも弱い心を包んであげよう!!
きっとその繊細で頑なになった心も、そんな包容力が溶かすに違いない!
ミュルゼンはお告げもないのに、不思議とそう心から突如として思えた。

危険を顧みず竜の間近に近づいたミュルゼンは襲ってくる焔を何とか躱しながら、竜の首に貼り付く。
だが、しがみ付くのではなく、竜の心を労わり解すかのように優しく包み込む。
そして、赤子をあやすように、手でゆっくりとその鱗を摩り撫でる。

直に竜の心と触れ合わんとする動作だ。

更に、固く閉ざしてしまった龍の心に語りかけるかのように、歌を歌う。
口を付いて出てきたその歌は、まぎれもなくミュルゼン自身が母に歌ってもらった懐かしい思い出の歌だ。
ミュルゼンの導師としての力が公となって、引き離されるようにして城に捉われていくまで間は、母と共に幸せに暮らしていた頃は本当に良くその歌を歌ってもらった。
だから、その歌を口ずさめば、今まで幾多とあった辛い事も乗り越える事が出来た。
ミュルゼンにとっても、それは安らぎの癒し歌。

ミュルゼンの母の愛が詰まっている。

だからか、頑なだった竜の心もその歌声と抱擁に導かれて、次第に和らぎ落ち着きを取り戻していく。
いや、竜神の心だけではない!
ソウルに満ちたミュルゼンのその歌声は、周囲のものも癒し、活力を与えていく。
花弁を全て吹き飛ばされたジャスミンも、再びその枝に蕾を付け、芳しい過ぎる程に狂い咲き始める。

無作為に荒ぶっていた竜は、今はその歌声に、慣れ親しむあのジャスミンの芳香に、ふと動きを止めている。
動物が良く懐く時に上げるようなキュウという可愛げのある声を上げ、優しく肌を撫でるミュルゼンの手にじっと身を任せている。
だから、その歌が終わる頃には、竜はミュルゼン完全に許していた。もしかすれば、自らの母に抱くような思慕に似た感情をも寄せているのかもしれない。

晴れて、この者達が自分の敵ではないと、竜は悟った。

臆病な竜はミュルゼンが思った通り、ただ突然やってきた侵入者が怖かったのだ。
それが敵でないと分かった今、竜は平常の安らぎを取り戻す事が出来た。今やミュルゼンが語りかける言葉も、竜神は聞き届けてくれるに違いない。

ミュルゼンがその躰を優しくもう一撫でしてやると、竜神はまた心地よさそうにキュウと喉を鳴らす。
先程まで辺り一面に立ち込めていた暗雲も、どこへやら? 今では雲と雲の間から晴れ間が覗き、暖かな陽がミュルゼン達の元に降り注いでいる。
あの黒光りしていた竜の鱗も、それを浴びてどこまでも蒼く、美しい光彩をキラキラと放っている。

そして、ミュルゼンの歌声によって活性化された気は、瀕死になっていたイセリーニエ達の活力をも取り戻させるに十分だった。
体の隅々にまで漲(ミナギ)る精力に、イセリーニエは指をピクピクと動かすと、目覚める。
辺りの静けさを訝しみながらも、立ち上がり、周囲を良く見渡す。
竜の首に跨るミュルゼンと目が合う。
ミュルゼンは未だ釈然としない様子のイセリーニエに笑みを送る。

竜神は我々を仲間として受け入れてくれたと・・・。

イセリーニエはそれでも釈然としないのか、虚を衝かれた様子で2,3度瞬きを繰り返す。だが、次の瞬間には破顔していた。
竜も目で通じ合う二人に特別な関係を感じ、“この者の大切な物ならば、決して自分にとって害になるものではないのだ”と、認め心を許す。
その証拠に、竜神はイセリーニエに向かって頭を垂れると、イセリーニエに似た人型を取る。

心を許したミュルゼンの最も大切とする者だからこそ、その型を取ったのに違いない!

だが、竜神はやはり“幼き子供”なのだ!
その模したその姿は、イセリーニエの少年時代を思わせるような小さき姿だった。
また、青竜そのものに・・・。いや、澄んだ青竜の心を映すかのように、青く透き通った髪を腰の位置までダラリと長く垂れ下げている。

何とも美しく、可憐な、少年らしき少年の姿だった。




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66.宝珠の夢

というのも、その二人の兄弟の喧嘩の仲裁に入った母の行動に、心奪われたからだ。
「ケンちゃんもサトちゃんも、仲間で使おう? 順番こだよ! だから、サトちゃんも10数えたら、お兄ちゃんに貸してあげて!」
「でも、僕も今使いたいんだ! サトが最初だなんて、狡いっ! 何でいつも僕だけ、僕だけ!! 我慢するの? お母さんは、僕が嫌いなんだ!!」

母は困ったような、辛い表情で兄の顔を見る。
「そんなワケないでしょ? お母さんがケンちゃんを嫌いな筈がないでしょ? 大好きなんだよ!!」
母が子を愛さないワケはない。
年齢に少ししか差がないとはいえ、度々兄の方に我慢を強いなければならぬ事が出て来る事に、罪悪もちゃんと感じている。
現に、柳眉の間の苦渋の皺がそれを物語っている。

だが、そうだからといって、ここにはそれが1つしかないのだから、それ以外の解決法はない!
兄にしろ、弟にしろ、どちらかが先を譲らなければいけない。

だから、親とはいえ、小さき兄の背に甘える。

こんな時は、どうしても“お兄ちゃん”を頼りにしてしまう。この小さき背中が、 “頼みの綱!”となっているのだ!
だが、それでは、その子の心は満たされぬ思いばかり募る!
だから、母はすっと兄の体を引き寄せると、それに代わるだけの愛ある抱擁をぎゅっと施す。

すると、どうした事だろう? 先程まで喚いていた子が、至極満たされた表情で母にしがみ付く。
先程の騒動はいずこへとばかりの大人しさで、母の胸深くに納まっている。

代価を与えるというならば、他にもお菓子とか別の玩具とかいろいろあったかもしれないが、それでは根本的な解決にならない事もある。
だから、泉希は、母の愛ある抱擁がそれらに替え難い威力のあるもののように感じた。

いや、違う!
元よりその子が求めていたものは、その玩具でなかったのかもしれない。
弟のサトより、自分に目を止めて欲しい・・・。
一心に、母の心を欲していたのかもしれない。
だから、もしその泣いている子がもっともっと小さい赤子だったとしたなら、“泣いたカラスが・・・”の如く、先程自分は何で泣いていたのかも分からないくらいになって満たされ微笑むのかもしれない。

そうだ! 前にもこのような様子を見た事がある。
たまたま泉希の家まで連れてきていた従姉の赤ちゃんが、眠たく不機嫌になって大泣きをした。そして、従姉の胸に抱かれその心音に触れているうちに、泣き疲れて寝ていったのだ。

“母からの愛”は“物欲”にも勝る! 心が満たされれば、どんな欲も不安も取り払う事が出来るのだ。

だから、泉希は徐々に落ち着き満足する兄の姿に、あの八方塞な夢の世界のヒントを得た気になる。
そして、泉希はその印象が心の奥深くに残り、家路へと戻る道中もあの光景が繰り返し繰り返し現れては、離れる事がなかった。

そもそも、ミュルゼンである自分は、何故かあのとぐろを巻いた恐ろしき竜を“幼き子”のように感じたのか?
泉希は、宝がかつて自分達に語っていた“四神思想”にある“青龍”に対する概念を思い出す。

・・・あの夢の世界は、いわば“青龍”の世界
・・・東南西北に対し、龍・朱雀・虎・蛇と亀、青朱白玄(黒)、春夏秋冬がそれぞれ呼応する
・・・東の方角に位置するのは“青龍”で、“青春”! うら若き時代
そして、あの竜こそが、あの夢の世界の象徴となる存在だとしたら!!!

すなわち、あの竜こそが、決して“老いない存在”なのではないか?

永遠の子供・・・。

だから、見た目はあんなに恐ろしい姿であっても、そんな“幼き印象”を得たのかもしれない。
ならだ、あの竜はそうして荒ぶっているのだろうか?
幼き子供の気持ちになって考えてみれば、至極簡単だ!

竜神は自分達を排除しようとするのではなく、むしろ!! 得体の知れない4人に恐れをなして、悲鳴を上げているだけの事なのかもしれない。

ああ、そうだ! あの話だって、子供の気持ちになって考えれば単純な理由からかもしれない。
あの各地に出来たという“竜の鱗”の泉も、人々の雨乞いの唄を純粋に喜んだ竜が、その楽しい気分のままに、同様に楽しい事である水遊びという行為に重ねて、その“楽しさ”を表現したに過ぎないのかもしれない。
それが結果的に大地を湿らせる恵みの雨となって、村人たちの望みに合致した。
そして、村人たちは“神”として、あの竜を崇め奉ったのだ!!

だから、感謝して止まないあの恵みは、単なる純粋無垢な竜の気まぐれ・・・・。

そして、今ミュルゼンが対峙しているあの竜は不安に駆られて、一心に母の愛に似た“安らぎ”を求めている・・・。

泉希は自宅に戻るや否や、さすがに躰も披露しきっていたのか、強い眠気に誘われて、夢枕もせずに眠りにつく。
けれども、その事は余程泉希の心に深く根差したのだろう? そんな手段を用いなくとも、自ずとミュルゼンの心に明かりを灯すものとなるのだった。

   * * *




※ 四神思想について。以前掲載した謎解きシーンを参照して下さい。 ⇒ ★(こちらの27話前後にあたります!) 

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ばけもぐ

Author:ばけもぐ
隠れ腐女。オリジナルのBL小説を創作しています。
傾向;男臭い/強気受け多し。切ない系~爆笑系。リーマンもの、体先行型多し。ハピエン。
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