『続執着』番外l-\2/2(ややR)

だが、侠耶の女になった時から、弱味となる自分は常に良からぬ者達のターゲットになりうる事は覚悟している。
これから先だって、こんな事は幾度となくあるだろう。
今更それを案じていても仕方がない。
今回は知らないところで第三者の世話になったようだが、こうしていろんな助けによって大事に至らなかったのだからまずまずとしておこう。

それに、タダでさえ何を考えているか分からぬ侠耶。少々手荒い扱いとはいえ、利通の事を大切に思い、強く求めてくれるというなら、それはそれで悪くはない。
そう…。全ての事を二人で分かり合い考えていく事が出来たなら、それに越した事はないが、知らないところであっても確かな腕に守られ、利通もこの身で侠耶の不安や苦しみを和らげてあげられるなら、それで構わない。

いや、構わないと思えるようになった。
もちろん、今でも侠耶を守る術を得たなら大いに守ってやるつもりでいるし、同じように自分も強くなりたいと思っている。

(ああ、侠耶…、大きな愛で包み込んでやる! 来い、いくらでも来い!)

痛みと快楽に翻弄されそうになる中、侠耶の肩の傷痕にそっと触れる。

(……ほら、侠耶はちゃんと俺の目の前で生きている)

だが、侠耶はそれに思いの外驚き、身をたじろがせる。悪戯な手の動きが止むと共に、上げた貌には深い皺が寄っていた。

「どうした? 侠耶、何を見ている。俺は隠れも逃げもしていない。ここにいる。お前の傍にちゃんといる」
「…………っ」
「大体、俺の命は他でもないお前に預けているんだ。煮るなり、焼くなり、好きにすれば良い。たとえ第三者がそれに割り込んでこようと……。そうだろ、侠耶? 必要があれば、お前の手で一思いに殺れ!」

すると、侠耶はいつものふてぶてしさを取り戻した。高飛車にふんと鼻を鳴らす。

(それで良い。それで良いんだ)

俺の前ではたとえ弱音を吐こうと、見栄を張ろうと、何だって良い。
生きている事が全て。何だって受け留めてやるつもりだ。
俺達が歩む人生は決して楽なものではないかもしれない。けれども、その間には揺るぎない愛がある。
だから、諸共に…。

首に腕を回し、侠耶を引寄せる。唇を薄く開き、侠耶のそれに重ね合わせる。
舌を差し入れ絡み合わせれば、痛い程キツく吸い上げられた。
そのあまりにもの痛さに、舌がヒリヒリと痺れる。
けれども、それくらいの痛みがある方が生きている実感が得られるというものだ。

「っっ、んっ……」

擦り付けてきた下肢の中心は硬く芯を持ち、強く自己主張している。
そういう利通も負けていない。貪欲に侠耶を求めている。
躰の中心に熱い血が集まり、雄の先端からジワリと蜜が零れる。

「侠………、ぁっ…」

今の自分達の事しか考えられないくらい強く抱いて欲しい。
そして、同じように自分も侠耶を抱き留めてあげたい。

次第に激しくなっていく動きに息が上がり、口からは喘ぎ声しか出て来なくなった。
それでも、侠耶の瞳を見れば、鋭い中にもほっこりと燈る温もりがある事に満足した。

それで良いんだ、侠耶……。


   - END -





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『続執着』番外l.-1/2(利通view)ややR

今回は『続執着』の番外編です。
といっても、『探偵GJ』のおまけです。
い、今更ながら…。

実は、私の中でこんな思いがありまして
 ↓
『探偵GJ』では進行の都合から『執着』の二人は名前だけの登場でしたので、二人を懐かしんで下さる方に少しでも喜んで頂きたいと、SS企画で二人を登場させたいと思っておりました。
ですが、なかなか実現出来ないまま、時ばかりが経ち…。

『GJ』の完結から随分と時間が掛かってしまいましたが、何とか仕上げる事が出来ましたので、読んで頂けれると良いなと思います。
という事で、時間軸を補足致しまして、本文に移りたいと思います。

設定 ; 『GJ』の黒杭との事件直後、利通view

では↓↓↓




l.【時折の暴君も…】


「くっ…、はっ………」
(侠耶っ!!!)
「っ…、っ…、んんんっ! ………ぃっ」

馬乗りに体を抑え込まれ、頤も掌でガッチリと捕えられて、僅かにさえ身動きが取れない。
そんな自由のない状態で、激しく唇を奪われている。
もう口の中はどちらの空間とも判断がつかない程だ。
唾液が交じり合い、侠耶愛用の煙草のフレバーが充満する。

(侠耶っ、侠耶っ!!)

軽く酸欠になって、頭の中が白く霞む。

「ひぃっ………、ゃっ…」

ヒドく横暴で、一方的に貪られるばかりの激しい求め。
気持ちが通じ合った今でも、しばしばある事だ。
そう、しばしば……。

もちろん、利通が侠耶を拒む事はない。時にはちょっとした嫉妬の時もあるが、こういう時は大抵何かあった時だ。
それも侠耶自身ではなく、利通に…。

侠耶とって、今も昔も世界は利通を中心に回っている。
だからこそ、利通を失う恐れを感じた時には、その反動が全て利通の身に降りかかってくる。

だが、そうだからといって、侠耶は錦織組で起きている出来事や利通の身に迫っている危険を基本的に話してくれる事はない。
たとえこちらが真剣に聞いたとしても、知る必要がないとばかりに上手くはぐらかされてしまうのだ。

けれども、侠耶は利通に誓ってくれた。
死の瀬戸際に面した時には、必ず利通もあの世まで道連れにしてくれると…。

もちろん、執着心の強い男だ。虎視眈々と後釜を狙っている寅之助を前に、利通を残して一人逝く事は出来ないだろう。
いや、かの事件で危機に陥った利通を炎を纏い助けに来た侠耶は、死の淵からでも蘇ってみせるという気概を感じた。
だから、もう利通から敢えて尋ねる必要も感じなければ、そんな野暮な事はしなくなった。
たとえ常に危うい世界に身を置く侠耶が心配であろうと。

それに、侠耶という人間を知れば知る程、自分はこの寂しい男の傍らにただいるだけで良いのではないかと感じるようになった。
そう、それが今の利通の居場所で使命…。

「ぐふっ…、ぃぃっ…………、けほっ、けほっ。………んんんっ」

股間をキツく圧迫され、息を呑む。
拘束されたままの頤も、もがけばもがく程ヒリヒリと痛む。

(侠耶、俺は逃げも隠れもしない)

そう言ってやりたいが、非力な利通では拘束の手を僅かにも緩ます事も出来ない。
仰け反る事さえ叶わず、ただ捻じ込まれた舌に口の中を滅茶苦茶に掻き回されているばかり。
そんなのでは快楽よりも苦しさ、愛よりも疎外感が勝る。

とはいえ、今回利通達の身の回りで何が起きていたのか、聞かずともある程度の察しは付いていた。
いつもに増してものものしく動き回る錦織組の舎弟達。クールさがウリの仁科が始終切羽詰まった様子でいる事。
呑気でいられたのは、事情を何も知らない利通と仁科の恋人・野崎だけに違いない。

もちろん、それを誰に尋ねようと、教育の行き届いている者達ばかりだ。その者を困らせるだけで、教えてくれる事はない。
既に分かり切っている事。探るだけ無駄だ。

けれども、思いも依らないところから、利通の耳に情報が入ってきた。
事は既に終わりを告げていたが、宇賀神寅之助からだ。

嬉々として利通の元に掛かってきた謝罪電話で、大体の経緯が分かった。
竜山会と睦友会の中間点であり、有松町の利権を優遇されている利通を利用せんとする命知らずな輩が起こした事。それも睦友会の末端組織だというから困った話だ。

けれども、チンケな存在ゆえに、利通には直々に話を付ける事が出来なかったのだろう。
おかげで利通も野崎も大事に至る事はなかった。
とはいえ、知らないところで、自分達の身代わりになった者がいるというから心苦しい。
それを寅之助は身内から出た恥として、利通にも丁重に詫びた。




”時折の…”じゃないんでは?!

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『続・執着』番外k-2/2(ややR)

もちろん、宿泊もホテルや部屋のグレードこそ違えども、修学旅行の時と似通った場所にある施設だった。

(じゃ、予定で言えば、今夜が…)

あの時、二人部屋で侠耶と過ごした一夜に当たる!

(……侠耶、どういうつもりだ?)

未だに今回の計画の意図が掴めない。
二人きりになったところで問い詰めてやろうかと思ったが、いざそうなると考えが変わった。
侠耶がそのつもりなら、利通もあの時と同じシチュエーションを装ってみた方が良い。そう考え直したのだ。

部屋にチェックインすると、直ぐにシャワールームに引き籠り、身体を清める。そして、侠耶を放ったまま、奥のベットへと潜り込んで寝たふりをした。

すると、やはり同じ。侠耶もシャワーを浴びて戻ってくるなり、利通のベットの中にそっと身を潜り込ませてきた。

「っ!!」

だが、また利通の思惑から外れた。

あの時と同じなら、当然色っぽい悪戯を仕掛けてきた筈だ。
けれども、侠耶はそうする事無く、背を向けたままの利通の体を背後からそっと大切そうに抱きしめてきただけだった。

「なっ……」

(何でだ?)

もしかすると侠耶はあの時の事をずっと後悔し、やり直したいと思っていたのかもしれない。
いや、こうして利通を一晩中抱きしめていた事が、堅気だったあの当時の掛け替えのない何よりもの良き思い出なのかもしれない。

「っ……」

(侠耶本人も、望んだ道じゃなかったのかもしれないけれど……)

おそらく、侠耶には他に選べるような選択肢はなかっただろう。

(ああ、あの思い出が掛け替えのないものなら、寂しい男だ)

それに、利通が考えている以上に、侠耶は今でも”利通”という存在を何よりも大切に考えてくれているという事だ。

(こんな風に、俺との思い出なんかを………。愛されている!)

相変わらず、言葉足らずで分かりにくい男だ。
けれども、今となっては子供同士の恋愛のみたいに、ただ背後から抱きしめられているだけでは満足出来ない。

(ああ、手を出してくれなきゃ焦れて、こっちが堪らない!!)

躰は既に侠耶の体温を感じ、期待に膨らんでいる。
雄は芯を持って堅くなっているなら、後孔の奥もウネウネと波打っている。おそらく内股の白粉彫りのサソリも、赤々と姿を現しているだろう。

そういう侠耶だって、布越しに触れる起立はあの時同様に強い存在を示している。
ブルリと身が震えた。

(ダメだ、堪らない)

くるりと身を反転させる。すると、侠耶がやや驚いた表情をした。
だが、直ぐに満足した様子でより一層利通の体を深く包み込もうとしてきたから、慌てて両手を首に回し掛けて、息が触れ合う程間近まで顔を引寄せた。

「侠耶、どうせなら、新しい思い出に作り直そうと思わないか?」

途端に侠耶の眉間が寄り、険しい表情となった。

「そうだろう? あの夜を大切な思い出だと思っているのなら、それ以上の愛を持って俺を抱け! あの時だって、本当はそうしたかったんだろ? ……いや、俺から愛されたかった。そうじゃないのか?」
「っ…」
「なら、安心して抱け! 今の俺なら、十分に愛してあげられるし、お前も俺を愛せるだろ?」

いつもの如く、侠耶はフンと鼻で笑った。
(ああ、それで良い。その方が侠耶らしい)

「そうだな? 思い出を新たなそれに塗り替えるのも、良いものだろうな?」

同調する間もなく、侠耶の唇が自分のそれに覆い重なってきた。
口腔内を激しく荒らされ、”利通”を奪われる。

(これで良い。これが俺達の関係だ!
だから、どれだけでも奪え。俺が、そのどうしようもない飢えを埋めてやる!!)

有松町の庵で打ち抜かれた銃創痕に、そっと触れる。
傷口は塞がっていても、侠耶の薬指には神経が通っていない。

(俺を守るために付いた傷だ……)

思い出は、利通達が生きた分だけ、辛くも喜ばしくも重なっていく。
重いものだ。
けれども、それが痛みを伴うものであっても、決して不必要なものではない。
利通達の絆を深めていく。

侠耶の生ける証拠を身の内に感じながら、二度目の修学旅行の夜が更けていく……。


   - END -





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『続・執着』番外k.【二度目の修学旅行の夜】-1/2

『続・執着』の番外と言いましても、時間軸的にはそれ以降でも、内容的には前作;『執着』に関係してます。
しかも、トピックが修学旅行ですので、物語のはじめの方…。
初回14。その中でも特に11(リンク)14の部分を踏まえて書いております。
もしよろしければ、未読の方も『執着』初回(リンク)14を流し見した上で、こちらのSSを覗いて頂けると嬉しいです。

そうそう、世間では今まさにその修学旅行シーズンなのでしょうかね?
基本的に学校によって時期はマチマチなのでしょうけど、この時期が比較的に多いと聞きました。
という事で、利通達のそれは春過ぎ設定となっていますが、頭の中にこのSSネタが浮かんだ次第です!

少しでも楽しんで頂けると、嬉しいな~~~。

では↓↓↓




k.【二度目の修学旅行の夜】(利通視点)


侠耶が、唐突に「今から旅行に出掛ける」と言い出した。

侠耶の気まぐれなんて、いつもの事だ。慣れている。
それに、明日からはようやく取れたまとまった休みだ。こちらも何かあるだろうと、予測していた。
だから、驚いてはいない。

早めの退社をし、言われるがままに荷物をまとめてマンションを経つ。
それが丁度七時頃。小さなトランクに詰められたのは二泊三日分の衣類だ。
いつもの利通の生活を考えたら、こんな時間にプライベートのそれを過ごしているなんて考えられない事だ。

だからこそ、浮き足立っている。
たとえ表には微塵にも出さなくても……。

利通達の元にやってきた黒塗りの車は、静かに二人を羽田空港へと運ぶ。
取り立ててパスポートが要るとも言われなかったから、これから飛行機で国内旅行にでも行くのだろう。
案の定、国際線ターミナルを通り越し、国内線のそれへとやってきた。
利通達は降りるや否や搭乗手続きを済まし、ラウンジで出発の刻を待つ。

ここまで何もかも卒がなく、計画的だ。
知らなかったのは利通だけで、随分と前から練られた予定だったのだろう。
侠耶に睨まれ、そのために動き回る舎弟達の姿が目に浮かぶようだ。
いや、今だって…。

お供として付いてきた黒服の舎弟達は、どれもが緊張しきった様子だ。

もちろん、そうは言っても、今回の件で最も動いたのはやはり香山だろう?
この飛行機だけでなく、ホテルや観光の手配も、香山がしたとみえる。
今日は顔を見ない苦労人に、心の中で合掌する。

とはいえ、今回のお出掛けは珍しく遠出なようだ。
そう、出張を除いて、旅行らしき旅行というものは行っていない。
だから、同窓会での契りを交わしたというのに、未だに新婚旅行すらも行っていなかった。

(まぁ、侠耶は普通の者と背負うものが違う。極一般的な幸せなんて、期待していないが……)

そうは言っても、たまにはこれくらいのサプライズがあっても良いのかもしれない。

(だから、快く乗ってやる!)

だが、侠耶はサプライズなんて柄の男じゃない。それに、秘密だって多々とある。
いつもの調子で極秘裏に前々から計画していたかと思うと少々腹立たしくもあるが、これでも感謝している。
しかも、自分が考えているよりも、この粋な計らいが思いの外嬉しいのだろう。気を付けていないと、頬の筋肉が勝手に緩んでしまう。

(馬鹿みたいだ)

それに、こうした自由が利くのだと分かったからには、今度は利通の方から旅行の計画を持ち出してやろうと思うあたり、我ながら世話がない。

けれども、どうしてこの時期なのか?

もちろん、暇のない自分達は時期を選んでいられない。
だからといって、ここのところ特に暇だといえば、否だ!
どちらかというと、密かなるこれのために過密となったスケージュールに、四苦八苦と付き合わされていたように思う。

だが、記念日というには全く関係ない時期なのだ。

そう、自分達の記念日というなら、同窓会のあった春先だ。とうに過ぎている。
それに、その日は侠耶と都内のホテルで豪勢に祝った。
オマケの旅行としても、今更だ。

(じゃ、やはりたまたまの都合か…)

だが、連れて来られた場所に、また驚いた。

(福岡……)

福岡といえば、修学旅行で訪れた地だ。
わざわざ訪れた事のある地を選んで行く事もないと思うが、敢えてここを選んだというなら何か意味があるのだろう。
訝しみつつも、何も言わず侠耶に付き合う。

だが、やはりそうだった。意図して、あの修学旅行と同じルートで観光が組まれている。

日数的には随分と短縮されているが、北九州を中心に福岡の太宰府天満宮にはじまって、長崎のハウステンボスに平和公園、グラバー園などを足早に回った。
それこそ、熊本の阿蘇観光がカットされていたくらいだ。

その既視感に一人焦燥とし、冷や汗を流す。




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『続・執着』番外j.【久々の受難】(マル視点)

久々に『続・執着』の番外の登場です。
本当、忘れた頃にですが…。汗
まぁ、完結した際に、”夏頃に”とは言っていたのですけどね! 笑
頂いた貴重なリクエスト通り、主人公利通の“姐さん道中”とはいきませんでしたが、マル視点でiのおまけ話のその後の様子をチラリと…。
楽しんで頂けると嬉しいです。
では↓↓↓




j.【久々の受難】(マルview)

マルは、凝りに固まった背中を伸ばすために、遠慮がちに伸びをする。
音を立てないように、気配を消して、そっと…。

いつもなら、この時間は稼業の木材屋で仕事をしている。
だが、今日に限っては、体調を崩した利通のピンチヒッターで、一日代理秘書として若頭にお供していた。
それが必要以上にビクビクとしていなければならない理由だ。

(こ、こ、こ、こ、これも、日頃お世話になっている片岡さんのためっス!)

いや、そんな殊勝な志ではない。
どちらかといえば、一見まともそうでいて妙に凄味と迫力のある利通に直々に頼み込まれ、断るに断れなかったのだ。
余程、敵対する睦友会にうっかりとブッコミに行ってしまったとする自分の方がマシだ。

(ど、ど、ど、どうせっっ。す、全て…、若頭の性に違いないっス!)

利通のこの不調は、若頭である侠耶が欲望の赴くまま、無理なSEXを強いてしまったからなんじゃないかと思う。
未だに利通に関する事で、侠耶に対するマルの心象は良くない。
そう、侠耶ははじめて利通を本宅に連れてきた折に、事もあろうか、皆の前で利通を強姦したのだ。

今の二人はマルの目から見ても愛し合っているように思えるが、一般常識が欠落している侠耶の事など信用出来ない。
非常識は五万と出てくる筈だ!

(本当、若頭は非常識の塊っス!)

それは、春に潮干狩りに行った時にも痛感した。

(一度も、貝を掘った事がないなんて………、どこのお坊ちゃまっスか~~!!)

心の中で密かに激しいツッコミを入れたくらいだ。
とはいえ、今日はどうにもこうにも、自分が不運である事には違いないようだ。

(はぁ~~~っっ。今も、何とは無しに俺の事、睨んだっスよね?
俺も若頭と一緒に一秒たりともいたくないっス!
本当、毎日一緒にいる片岡さんを尊敬するっスよ~~っっ。
ああ~~~っっ、まだまだ一緒にいなきゃいけないなんて、針の筵で5重巻っス!)

一見、美味しそうなエビフライか何かのようなビジュアルの自分を想像して、噴き出しそうになった。
だが、知らず知らずのうちに年の離れた恋人である香山のボヤキ癖が移ったのか、気付けばまた長々とした呪詛を心の中で吐いていた。
しかも、どれだけ吐こうが、全く収まる様子がない。
これも利通直々のお願いだという事で、侠耶が要らぬ嫉妬をして、根に持っているからだ。これではマルへの恨み風当たりも悪くなる一方で、恨み言は尽きない。

(最悪最低の日っス! しかも、今日は頼れる舎弟頭もいないんだから、地獄っスよ~~)

強面でも優しい恋人の顔を思い浮かべれば、早くも目に涙が滲んできた。

(舎弟頭~~~、俺をここから早く助け出して下さいっスぅ~~!!)

その助けをどれだけ望もうと、叶う筈がない! その香山も、今日はマルがフォローしきれない利通の仕事とマルそのものの仕事の穴埋めを請け負って、右に左にと多忙さを極めている。
とてもじゃないが、ひょっこり顔を覗かす余裕もないだろう。

(なら、逆に舎弟頭に“男”を見せる時か……)

依存しているばかりが“愛”じゃない。
そう思い直して踏ん張ろうとしたのに、不運は続く。
噂をすれば陰。先程誤ってブッコミに行ってしまった方がなんて思っていた睦友会傘下の梶尾組の虎ネコ大将、宇賀神寅之助から電話が掛かってきた。

しかも、宇賀神は利通がいない事を告げるとあからさまにムっとして、侠耶に取り次ぐよう迫ってきた。
だから、仕方なく取り次げば、何の事はない。侠耶に、鋭い目で睨まれた。

(か、確実に、寿命が二歳は縮まったっス~~~)

しかも、宇賀神は声がデカい。マルのところまで筒抜けだ。
俗に“声が大きい者はアソコも大きい”というが、宇賀神のソレもとても大きそうだ。
とはいえ、その声が甚だ迷惑であるのに変わりない。仕方なく漏れ聞こえてくるそれを盗み聞きしていたら、滝のような冷や汗を瞬時に掻く羽目になった。

宇賀神は侠耶相手に意気揚々と『今日は、毒姫がいないそうだな? 痴話喧嘩か? そうだというなら、このまま別れてしまえ! 後はこの俺が遠慮なく姫の身受けをしてやるから!!』などと喧嘩を売るものだから、侠耶の鼻息も荒くなる。
ふんと鳴った鼻息の音に、マルの寿命がまた1年縮まった。

とはいえ、宇賀神もとんでもない多弁野郎だ。
厭味一つ言えば収まるかと思った電話だが、なかなか切る気配がない。
あまり侠耶の怒りを、不用意に煽らないで欲しい。同じ空間にいる者が憐れになる。

『そうそう、錦織? 耳寄りな話を聞かせてやろう! うちの若いものが、毒姫と同級生らしくてな?』
『ふんっ、布施(アイツ)か……』

いつぞやの茶会で一悶着があった。その時にいた梶尾組の舎弟の事だろうか?
マルもあの現場に同行していたのだから、良く知っている。

(若頭の前で、馴れ馴れしく片岡さんに話し掛けて…。あれは一発触発だったっス!)

案の定、それを聞いて、侠耶は面白くない表情をした。

『布施(ソイツ)が里帰りした折にな? 中学時代の卒業アルバムと毒姫を隠し撮りしたスナップを大量に持ち帰ってきた!』
『っ!!!』
『かの頃の姫はあどけなさも残っていて、乙なものだな?』

侠耶が知る利通は高校に上がってからだ。
仮に利通に昔のアルバムを見せてもらっていたにせよ、その当時の姿を宇賀神もが知っているのは癪に障るに違いない。
いや、隠し撮り写真もあるというのだから、利通本人ですら知らない姿が写っているのかもしれない。

案の定、優越感に浸るこの男を直ちにブチ殺したいとでも思ったのか、侠耶の堪忍袋の緒がプチリと派手に切れる音がした。
しかも、それだけではない。それと同時に、凶器と化したガラス製の灰皿がマル目掛けて飛んできた。

「ぐへぇ……、痛いっ、熱いっス……」

椅子から転がり落ち、患部を押さえて蹲る。

「悪い、手が滑った」

殊勝に謝るものの、全く反省しているようには見えない。恐らく、“避けれなかったお前が悪い”くらいにしか思っていないのだろう。

(う、う、う、打ち所がちょっと悪ければ、簡単にあの世っスよ~~っっ)

もちろん、その後の事は言うまでもない。侠耶の八つ当たりを一身に受けて、酷い一日になった。

(俺っち、不幸だ。不幸過ぎる…。
厄払いに出掛けた方が良いのかな~~~?)

香山の顔を思い浮かべ、また涙ぐむ。
大体からして、極普通の人間であるマルには侠耶のお守りは少し荷が重い。
もちろん、これから先、利通の代理をまた頼まれようと御免だ。

(舎弟頭~~~っっ。俺、今日は打撲と火傷をしたっスぅ~~~っっ。
とばっちりで、悲惨っス………)

涙、涙、涙。

(しかも、嫉妬した若頭が片岡さんをまた襲ったら、明日も代理になるじゃないっスか、俺?)

二度と御免だと思った矢先に、これだ!
号泣ーーっ。

   -END-




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ばけもぐ

Author:ばけもぐ
隠れ腐女。オリジナルのBL小説を創作しています。
傾向;男臭い/強気受け多し。切ない系~爆笑系。リーマンもの、体先行型多し。ハピエン。
拙い作品ですが、楽しんでいって下さい。
尚、誹謗中傷、未成年の閲覧、画像の無断転用はご遠慮願います。


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