108.執着

嫌な予感が的中した。まさに侠耶の意図したところは、同窓生の前での婚礼だった。
僅かにも、利通の想像を裏切らなかった。
利通は、その事に苦虫を噛み締める。

そうだ! 俺はそうだと勘付いていながら、のこのことここまで付いて来た。
そんな自分自身にも、いやと腹が立つ。もっと抵抗するべきだった。
だけど、侠耶? 何故、皆の前で、わざわざそんな姿を晒さなくてはならない?

……俺は、嫌だ!

とはいえ、それを覆す事は出来ないだろう。侠耶が決定した事は、絶対だ。今までだって、不意になった例はない! 
だが、そうだからといって、利通は “はい、そうですか”と大人しく引き下がるタマでない。
不機嫌さ丸出しで、侠耶の顔を睨(ネ)め付ける。

突如として始まった二人の痴話喧嘩に、会場内には極度の緊張が走る。
空気はピリピリと辛く、シーンと静まり返って、とてもこれから結婚式が執り行われる場とは思えない。
この晴れの場に呼ばれた同級生の面々も、一様に固唾を呑んで、その一部始終を遠巻きに見守る。

とはいえ、利通のこの怖いもの知らずの態度には感服する。侠耶に意見しようなどという者は、今も昔も極限られた人間だけだ。
あの”極道の中の極道”みたいな香山でさえ、侠耶のする事に対しては、滅多に口を挟む事はない。ともすれば、その親である組長や亡き姉さんだって、同じだ。侠耶の扱いには、相当手を焼いてきたに違いない。

もちろん、利通も最初からそうだったわけではない。
望まずしてだが、侠耶の片割れを務める事になったからには、今まで通りの生半可な姿勢では、とてもじゃないがやっていけない。自ずと強くなる。
だから、利通はそういう部分に於いても、侠耶によって、良くも悪くも変わらされたのだ。

とはいえ、僅かにでも、その素質がなかったら、こうはなれない。だから、そういう意味でも、利通は”選ばれし男”だったというわけだ。

そして、今では侠耶に意見する事の出来る貴重な存在として、君臨している。しかも、本人は知らなくとも、侠耶の舎弟達は、堅気ながらに伊達ではない存在として一目置いている。
もちろん、だからこそ、今も変わらず、侠耶の心を惹き付けて止まない。

……そう、”ついと手折りたくなる君”のままなのだ。

だが、二人の痴話喧嘩を見守る者達は、それこそ極普通の人間だ。そんな二人の空気に耐えうるだけの精神力は持ち合わせていない。
しかも、今では利通の醸し出す雰囲気にも、ビク付いているくらいだ。
右を向いても、左を向いても、壮絶な睨み合いで、怖いとばかりに震え上がる。

“ああ、この後、この二人はどうなってしまうのだろうか?”
“そして、それがためにとばっちりを受けて、俺達までも久々にとんでもない目に遭わされるんじゃないのか?”
などと、気が気ではない。血の気も、失せていく一方だ。
皆が、事が穏便に済んでくれるよう、必死に心中で祈っていた。

しかも、今日という日を、自ら進んで出席した者はいない。あの利通が来るからと、何が何でも出席するよう、侠耶自らお達しがあったのだ。
その上、礼服着用との注意書きまであったのだから、尋常な事ではない。皆が、侠耶の願いが晴れて叶った事からの特別行事だと、結論付けたのは言うまでもない。

それでも、出来る事なら侠耶には二度と会いたくはなかった。利通でなくとも、そう思うのは普通の事だ。
だが、そうだからといって、欠席しようものなら、後でどんな目に遭わされるか分かったものでない。皆が、泣く泣く万障繰り合わせて、この会に馳せ参じてきたのだ。
中には海外勤務で、今日の出席のために相当苦労した者もいる。けれども、未だに薄れない侠耶の脅威を鑑みれば、然るべき労であったし、今回の特別さを慮かれば、尚更の事だった。

それなのに、今の現状を見る限りでは、彼らが想像していた事情と異なるようにしか思えない。
そう、誰しもが、未だに侠耶から利通への一方通行の恋のままなのだと勘違いした。
だから、もちろんの事、侠耶の生贄の如く、無理矢理妻にならされる利通へ、尽きる事のない同情を寄せた。
そう、同情は尽きないのだが……。

その一方で、ここは穏便に利通が侠耶の妻となってくれる事を、心底願った。

だから、幹事を任された沢村と持田に至っては、他の皆とは比べものにならない程焦って怯え、冷や汗を垂らした。
髪の毛なんて、尋常ではないそれのために、一っ風呂済ませたみたいに、びっしょりと濡れそぼっている。
そして、誰よりも二人の行く末を心配し、視線をオロオロと彷徨わせて、寿命が1,2年あまり縮まったに違いない。

「聞いていない! 俺は、全く聞いていないな。一体どういつもりだ、侠耶っ? 何で、俺がお前とそんな事までしなくてはならない?」




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