44.フェイクデレラ

(覗き込まれでもしたら…、困る! は、早く、元の位置に戻さなきゃ…)

そうだ! 今、顏を覗きこまれたら、サギリだとバレてしまう。
より一層、気が急く。
けれども、急いては事を仕損じる! だから、ゆっくりでも、確実にと……。

実は、震える指先で何とか眼鏡を元の位置へと掛け戻す。

(……ホっ。これで、一先ず安心だ……)
だが、動揺で、まだ実の指先は震えている。心臓も高鳴ったままだ。
バクバクバクと、全身があたかも耳の鼓膜になってしまったかのようだ。

だが、そうとは分からぬ陽太郎は、実を抱き起そうと、その暖かな手を差し伸べてきた。

「ぅっ…!!」
「ま、真鍋っ? 大丈夫か? 痛いだろ? でも、ほら、捕まって!!」

親切心からだというのは分かっている。だが、実はそれを受け取らなかった。
いや、受け取れなかった。

そう、まだ手が震えている……。

それに、一応は眼鏡を掛け直したとはいえ、不具合のある手がした事だ。何となくだが、不意にポロリと落ちてしまわないか、心配だった。
だから、もう一度眼鏡の位置がブレていないかをしっかりと確かめてから、実は壁に手を這わせ、よろよろとだが自力で立ち上がった。

「あ、ありがとう…、筧くん! だ、大丈夫だから!!」
「そ…、そう…………」

陽太郎は、手持ち無沙汰になった手を引っ込める。少々寂しそうな表情でいるのが、申し訳ない。
けれども、正直なところ、自分の素顔を陽太郎に見られずに済んだ事に、実は胸を撫で下ろしていた。
これも仕方がない。実だって、余裕はないのだ。

「だけど、真鍋……。今度は無理にならないようにするから…、ほら!!」

陽太郎は一度引っ込めた筈の手を、服の裾で手袋に付いた氷を拭い取った後、懲りずに再び実の前へと差し出してくる。
暗に“今度こそ受け取ってくれ”と、願いを込めて…。

ああ、この瞳を知っている。実は、知っている。
“サギリ”だった頃、幾度となく自分に向けられた瞳だ。

「で、でも……。大丈夫………。筧くん、僕、一人で頑張ってみるから!!」
「えっ…。でも、真鍋っ!!!」

そりゃ、手取り足取り教えてくれるというのなら、それに越した事はない。
けれども、手厚くされるより、時には手放された方が良い事もある。
そう、上達もその方が早い。確かな事だ。

それに、自分はもう“サギリ”じゃない。そんな瞳をした陽太郎のこの手は、受け取れない。

「大丈夫! 頑張ってみるから、筧くん! 見てて!!」
「えっ、でも…」
「遠くから、見てて!」
「えっ………」
「うん、それで大丈夫だから!! そ、それに、筧くん。これでも僕も大人の男性だから、いくらなんでも手を持たれて滑るのは、恥ずかしいんだ! だから、ごめんね、筧くん! 僕、一人で頑張ってみるから!!」
「っ………」

これだけ派手に転んで相当な恥を掻いたというのに、更に転んで恥を上塗りさせても良いみたいな主張を真顔で訴える。
いや、逆だ。一度恥ずかしい思いをしたら、もう何度晒しても同じだった。却って、開き直る事が出来た。

「じゃ、行ってくる!」
「えっ、あっ……」
「だから、筧くんも、ほら!! 僕は僕で頑張るから、放っておいて、一人滑ってきてよ!!」
「う、うーーん、っ…………」




 /  / 初回 / 登場人物紹介 / 総合目次1(最新作~) / 総合目次2(旧作品)

いつも読んで下さり、ありがとうございます!
よろしければ応援ポチリして頂けるとうれしいです
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

ばけもぐ

Author:ばけもぐ
隠れ腐女。オリジナルのBL小説を創作しています。
傾向;男臭い/強気受け多し。切ない系~爆笑系。リーマンもの、体先行型多し。ハピエン。
拙い作品ですが、楽しんでいって下さい。
尚、誹謗中傷、未成年の閲覧、画像の無断転用はご遠慮願います。


本館(当ブログ)目次↓
dreamtripbana.jpg
分館目次↓
dreamtripbana.jpg
twitter↓
@bakemogu53

ランキング参加しています!
よろしければ応援お願いします!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
人気ブログランキングへ


現在の閲覧者数:


おすすめトラコミ&サーチ
にほんブログ村 トラコミュ ボーイズラブへ
ボーイズラブ
にほんブログ村 トラコミュ BLイラスト・漫画・小説何でも書いちゃう!へ
BLイラスト・漫画・小説何でも書いちゃう!
にほんブログ村 トラコミュ 小説15禁・18禁(性描写あり)へ
小説15禁・18禁(性描写あり)

最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最新コメント
QRコード
QR