2.澤木兄弟

「っ…、やっ………、やめろよ! 怜二、何するんだよ!」
 狭いワンルームに、驚き焦った声が響く。自らに“誤った”覚えはない。

 あれは今からちょうど七年前。東京の大学に進学し、初めて迎えた夏だった。

 当時高校三年生だった怜二は、啓一同様に関東の大学への進学を希望していた。
 それで自由の効く夏休みを利用して啓一の下宿先に泊まり込み、各大学のオープンキャンパスを回りたいと言ってきた。
 約一週間の予定。キャンパス回りにはちょうど良い長さだ。

 けれども、すっかり気ままな一人暮らしに羽根の伸びた啓一にとって、怜二の滞在は必然的に手が掛かれば、兄弟とはいえ他の目があって窮屈でならない。
 しかも、相手は受験生だ。さすがの怜二といえども、ピリピリと張り詰めた空気がどこかにあった。
 自ずと怜二と過ごす一週間はとても長いように感じた。

 息苦しさのあまり、体の良い理由を並べて友人の家に逃げ込んだり、あらかじめ詰めておいたバイトへといそいそと出かけたりした。
 実質、泊まる場所を提供するだけ。兄弟だというのに、協力してやるどころか大して構ってもやらなかった。
 朝は兎も角、夕飯はほとんど一人にさせたんではないかと思う。

 冷たい兄だ。

 だが、そもそも啓一は面倒見の良いタイプではない。長男気質と言おうか、マイペースにのんびりと構えているだけだから、怜二の方が何かに付けて気が利く。
 時折、怜二がさりげなく母やいつきを気遣い、助けたりしているのを目にした。

 そんな風に啓一の無頓着・無愛想ぶりは今に始まった事ではないのだが、至らぬ点だと自覚している分、自分より何もかもが優れる怜二を羨んでしまうのだろう。
 つい怜二と比べられるのが嫌で距離を空けようとする。

 そう、身近なところに比較対象があるのは辛いものだ。

 啓一の上京の裏には、そんな思いも大いにあった。
 だからこそ、帰省するのも億劫で仕方がなく、このはじめての夏休みもお盆を挟んだ数日間だけにしようと考えていた。

 けれども、そんな思いが裏目に出た。オープンキャンパスを考えていた怜二にとっては好都合でしかなく、啓一の予定を尋ねてきた怜二がそれを耳にした途端、電話口の声が嬉々と弾んだ。

 どうやら苦手意識を抱いているのは啓一だけのようで、当の怜二は正反対。何が良いのか分からないが、未だに金魚の糞のように啓一に付き纏おうとする。

(知っているよ。オープンキャンパス、オープンキャンパスって、俺の大学のにも行ってきたってさ…)

 怜二の荷物の中には、殊更大切そうにそのパンフレットがしまわれていた。

 だが、それを偶然目にしようがしまいが、今までの怜二の行動パターンから容易に察する事が出来た。
 自分より出来が良いくせに、怜二は高校進学の際も何故か担任教師の勧めを断り、敢えて啓一の通っていた学校を受験したのだ。
 そのために否応なしに二年間、出来の良い弟と比べられる羽目になり、とても苦しい思いをした。

(俺は、出来るだけ離れたいのに……)




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Author:ばけもぐ
隠れ腐女。オリジナルのBL小説を創作しています。
傾向;男臭い/強気受け多し。切ない系~爆笑系。リーマンもの、体先行型多し。ハピエン。
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