《○○年1月3日》
正月の帰省から戻ってきた。
盆は啓一に会えなかったけど、この正月は会えた。
良かった!
今回もやはり啓一とは一言もしゃべらないままだったし、下手すると直ぐに啓一が席を外してしまうから、同じ場所にいる時間といったらほんの僅かだったけど。
それでも一目顔を見る事が出来たのだから、良かった。お盆に比べたら恵まれている。
《○○年○○月○○日》
夜、母さんから電話があった。おかげで会話の端々から啓一の近況を知る事が出来た。
相変わらず面倒がって、きっちりとした食事も取っていないらしい。
啓一らしいといえば、啓一らしいけれど。
だけど、そんな風だと聞けば、体を壊したり、あの細い身が一段とやせ細るんじゃないかと心配になる。
大丈夫なのだろうか?
触れて、キスして、啓一の全てが欲しいなんて、高望みはしない。
俺と同じように愛してくれとも言わない。
だけど、煩く思われても、堂々と啓一の世話を焼く事が出来たらどんなに良いか。
兄弟として当たり前の事ですら、今はもう叶わない』
そんな怜二の想い以外にも、啓一の知らない間の怜二自身の様子がよく分かった。
怜二は某大学の国際学科に入り、一年間、交換留学生としてアメリカの姉妹校に在籍していた事。今は某会社に就職し、営業職に就いている事。
それは啓一の会社にも出入りしている企業だ。
しかも、怜二はそこで森という若いがヤリ手の上司に目を掛けてもらっている他、営業部のホープ・長瀬や山根といった同僚達にも随分と良くしてもらっているようだ。
憎いと思っていた弟だけど、実社会に出ても躓く事無く何とか上手くやっているのだと分かり安心した。
それに、怜二の日記の大変は啓一への想いとその悩みで占められていたというのに、不思議と嫌悪感は抱かなかった。
むしろ時間も忘れ、その日記を読み耽っていたくらいだ。
そんな自分を自分でも意外に思う。あんなに嫌っていたというのに。
夢中で一通りの記録に目を通し、元の位置に戻そうとした瞬間、盗み見を咎めるかのように電話が鳴った。
だが、ディスプレイを確かめると実家からだった。
一瞬電話に出るのを躊躇ったが、不仲な啓一の隣に越した怜二のその後を心配しているだろう母を、安心させてやるつもりで受話口に出た。
『もしもし。私だけど、怜二?』
陽気で溌剌とした母の声が耳に飛び込んでくる。
「いや、俺だけど……」
『えっ、啓一? 啓一なの?』
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