34.澤木兄弟

 時計の針が二一時を回った頃だろうか。隣室のドアが開閉する音が聞こえた。

 啓一は冷蔵庫からコンビニで仕入れてきた弁当と360mlの缶ビールを一本取り出すと、緊張した面持ちで隣のインターフォンを押す。
 すると、間をおかずして扉が開き、中から怜二が顔を覗かせる。

 やや疲れた様子だ。いつもはキリリと切れ上がった双眸も、今は垂れ落ち柔らかい印象になっている。
 けれども、啓一の顔を見た瞬間、パッと嬉しそうに顔を輝かせた。

「今日は、その……、世話になった」
「啓一………。いや、そんなのは良いんだけど、調子はどうだ?」

 真剣な面持ちで聞いてくる。怜二は自分の体のよりも、余程啓一のそれの方が気になるらしい。

「だいぶ良い」
「そうか、それなら良かった」
「それよりも、お前の方こそ大丈夫なのか? 仕事の片は付いたのか?」
「まあ、何とか」

 怜二は口の端をニッと上げる。どうやら言葉通り、妥当なところに収まったようだ。

「そうか、お疲れ様だったな。それに……、作り置きの飯も上手かった」
「っ、はは………。啓一に、そんな事を言ってもらえるとは思わなかった。大したものじゃなかったけど、作った甲斐がある」
「ぅっ………、あぁ…」

 啓一からの労いの言葉に、怜二はこれとない程頬を綻ばした。
 たった一言。それだけで、今日の仕事の疲れも吹っ飛んだのに違いない。
 良い顏をしている。

「それと……。お前の留守中に、母さんからの宅配が届いた。電話もあった。荷物は受け取って、冷蔵庫の横に置いてあるから、後で電話をしておいてくれ」

 わざわざ啓一が怜二の部屋を訪ねてきたのには、純粋に怜二の顔を見に来たわけではなく、これがあったからなのだとでも思ったのだろう。怜二は瞬く間に表情を曇らせる。

「あと、鍵………」

 面前に鍵を差し出すと、より一層陰った。

「べ、別に……。ここの鍵くらい持っていてくれても良かったのに………」

 出来るならこのまま啓一に自分の部屋のスペアキーを持っていて欲しいと願っているだろう。

(相変わらず……)

 怜二は、啓一の一挙手一投足に振り回されている。
 けれども、それも早合点だ。そういう意味で、この鍵を差し出したわけではない。

「違う。怜二、早合点するな。これは俺の部屋のスペアキーだ。お前のは預かっておく」
「ぇっ……………、啓一のスペア?」

 怜二は目を瞠る。

「そうだ、俺の部屋のだ。だから、何かという時はよろしく頼むよ」
「あっ、ああ……」

 啓一からの意外な言葉に驚いた様子だったが、怜二は鍵を握り締めるとにんまりと頬を緩める。とても嬉しそうだ。




天国⇒地獄⇒天国 ppp

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