37.澤木兄弟

 怜二に、啓一を餌付けしてなんていう下心があるわけではないだろう。
 だが、“つもり”がなくともすっかり懐柔されて、この頃は怜二に対する警戒心もめっきりと弱くなった。
 数か月前の自分なら怜二の前で転寝するなど考えられない。完全に意識が遠のいて、易々と深い眠りに入った。

 とはいえ、ものの数十分の事だったと思う。
 はっと意識を取り戻した時には、自分の近くに怜二の気配を感じた。

(………っ)

 そうはいっても、怜二は手を出してくるわけではない。ただ傍らでじっと啓一の寝顔を見ているだけだ。
 いや、隙を見せた啓一に必死に触れまいと、理性と欲求との狭間で葛藤しているのかもしれない。
 眉根に深い皺を作り、口元で手と手を指が白くなるほど固く組み合わせている。

 それでも欲求が勝るのかもしれない。あれほどガッチリと組み合わせていた手を解いて、頬に掛かる啓一の髪を梳こうとした。

(っっ…)

 けれども、怜二はそんな自分にはっと気づいたのか、出したその手を慌てて引っ込める。そして、また膝頭の上で解けないよう固く握り締める。

「兄弟に戻るんだ、戻るんだ。………俺と啓一は、兄弟に戻ったんだ」

 握り拳をフルフルと震わす。求めてはならない兄に欲情してしまう自分を必死に律している。
 それでも眠りに落ちた啓一を気遣い、運んできたタオルケットを身にふわりと掛ける。
 そして、自分は魔が差さないように、なるべく啓一から遠く離れた部屋の隅に蹲り、抱えた膝の上に顔を深く伏せる。

「無防備過ぎる、無防備過ぎるよ……。本当に分かってるのか、…………啓一?」

 ため息交じりの呟きが聞こえてきた。

「だけど、この人は俺の大切な人だ、大切な………。二度と傷付けちゃいけない」

 言葉のまんまに違いない。怜二にとって、自分は兄弟というより近くにいる愛しい人だ。触って、唇つけて、奪いたくなるものなのかもしれない。
 不用意にこんな無防備な状態を晒すのは酷だ。

 そうでなくとも怜二は避けられる辛さとは別の、兄弟としてまた見守っていく事の歯痒さに日々苦しんでいる。
 自ら決意したこととはいえ、簡単に割り切れる感情ではないだろう。
 もちろん怜二はかつてのアレを後悔し、深く反省している。二度とあんな過ちを犯そうとはしない。

 それなのに、怜二の前で不用意に隙なんか見せて……。

 決して怜二の理性を試しているつもりではない。
 怜二の想いを知っていながら、つい気を許し寝込んでしまった自らの罪づくりさを反省する。

 怜二は、啓一が一つ屋根の下に無防備な姿でいる限り落ち着く事は出来ないだろう。
 悪い事をした。応えられないと思っているなら、下手に期待させてはいけない。あくまでも兄と弟。それ以上でもそれ未満でもなく、お互いがその立場に徹するべきだ。
 今日みたいに怜二の前で期待を持たせるような事は二度としない。

 けれども、今日の失敗を反省する自分はいても、以前のように恋愛対象として見られる事に嫌悪する自分はいない。
 怜二が怖いとも思わない。
 そんな自分の心境の変化に正直驚き、戸惑っている。

 啓一も罰が当たったのか、結局そのまま一睡もできずに朝を迎えた。

   * * *




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