37.宝珠の夢

けれども、やはり敵にとってはこの状況は望ましいものでしかない。
刺客の男は、タカラッシュがミュルゼンを気に掛ける余り出来た隙を、容赦なく突いてくる。
敵であるからには、こんな好機など見逃したりはしない。

それに、強いて言うならば、この相手が戦士であるからこそ、よりそこを顕著に狙ってくるのだ。プロフェッショナルにとって、常に戦いはシビアなもの。だからこその、付け入らなければならぬ隙だった。
男は造形のスピードを上げると、岩柱をそのタカラッシュの細い身に目掛けて、尋常でない速度で矢継ぎ早に打ち込んでくる。

目にも甚だしい猛攻撃だ。

けれども、通常の状態でも精一杯ともいえる男の攻撃であるのに、散漫となった気ではその速度についていく事が出来ない。
分子に砕き損ねた鋭利な礫が、タカラッシュの肌に赤い線刻を幾段にも作っていく。
とはいえ、致命傷とまではいかぬ傷で納まっているのだから、タカラッシュの能力の程もやはり並みのものではないという証だ。
しかし・・・。

持っていられるのも、時間の問題もしれない!

男のスタミナはその体格に見合って凄まじいものである事は言うに及ばないが、ミュルゼンの膨れ上がった気も後どれだけ持つか分からない。
そして、何よりも一番問題であるのは、タカラッシュ自体の体力! そのものだ。
タカラッシュはもともとスレンダーな体格なら、そこに秘められたその体力も旺盛な方とはいえない。その上、戦闘能力が高いとはいえ、あくまでも賢者が生業だ。
戦闘するために、特別鍛え上げられた体ではないのだ。

だから、この闘いには元より限界がある!

今も、男からのひっきりなしの攻撃に、身は休まるところを知らず、どんどんと体力を消耗してきている。しかも、それに追い打ちをかけるように、かわし切れなかった攻撃を一身に浴び、より一層のダメージを招いてしまっている。

とはいえ、ここにマリオンやイセリーニエの到着をあてにする事は出来ない!

男が現れてから、これだけ時間が経過しても、二人は姿を見せないのだ。当然、向こうにも刺客が現れている事は想定内の事なら、来れない事情も重々と察せられた。
だから、タカラッシュは今にも暴走しかねないミュルゼンの気を背後に感じつつ、このどうしようもない窮地に思いを馳せ、苦々しく舌打ちする。

けれども、突如、事態は好転する。

来れはしないと思っていたイセリーニエが、自分達の元に姿を現したのだ。
これで自分は目の前の敵にだけ集中出来る。
そして、タカラッシュはそう思うと同時に、マリオンの姿を思い浮かべる。
マリオンとは付き合いが長い上に、自分とはちょとやそっとの仲ではない。だからこそ、語られなくとも察しが付く事もある。

マリオンという人物を考えれば、敢えて彼らの元に現れた刺客を自分が引き付けるかわりに、イセリーニエをタカラッシュらの元に寄越したのだろう事が重々と窺える。
そして、その計らいは単なる偽善や遠慮でした事でもない事も分かる。

マリオンは一見鷹揚で前向き、そして気遣いも出来るような好人物であるが、どうも掴みどころがない。
というのは、その裏に、意外にしたたかで計算高く、厳しい一面も持ち合わせているからだ。
けれども、それはマリオンの戦士としての一面で、並々ならぬ訓練を受け、戦士として生き抜いてきたからこその資質なのかもしれない。

だからこそ、逆にイセリーニエを差し向けた事には、彼なりの計算の末に至った最善策であるといえた。
タカラッシュとて、特別な思いのある相手なのだから、マリオンの身が心配ではないわけではない。けれども、マリオンがそう判断したという事は、この窮地に陥っていた勝負の行く末も良き方へと導かれたのだと確信する事が出来た。

そして、それは何よりタカラッシュがマリオンをパートナーとして認め、絶対的信頼を置いているという証拠でもあった。

ゆえに、タカラッシュにとって、イセリーニエが来た事は実質的な意味合いだけでなく、精神的にも大きな支えとなりうるのだった。
心配事の一つが減り、更に気力が向上した今、タカラッシュは集中力を取り戻し、打って変わって男の攻撃を凌ぎきる。更にはそれ同時に、相手の懐まで分子化を食い込ませていかんばかりの勢いだ。
単純な事かもしれないが、勢いづいたタカラッシュは止まらない!

けれども、形勢不利となっても、男もさすがに凄腕の刺客所以なのか、その表情は変わるところがない!
“ならば!!”と、先程にも増して攻撃の手を強め程だ。

一方、タカラッシュの好戦を尻目に、イセリーニエはミュルゼンの元へと駆け寄る。そして、その身を覆うようにして溢れ出す気を鎮めにかかる。
これ程にまでの膨大な力! そのミュルゼンの大きな力は、敵と対峙するには非常に魅力あるものだ。けれども、制御出来ない今は、まだその内に鎮めるしかないのだ。
本人はイセリーニエ以上に不本意と思っているに違いないが、イセリーニエは自らの全力を上げて、それに取り掛かる。

けれども、思いの外困難だ。男とタカラッシュの力が高いゆえに、それらに引きずられて、鎮める端から外へ外へと、凶暴なまでにどんどん溢れ出してくる。
しかも、今まで以上の暴走だ。ミュルゼンの苦しみも今まで以上だ。
伴う痛みに顔を歪め、額からは大粒の脂汗を滲ませている。この度は、声すら上げられない様子だ。

そして、ミュルゼンもいつも以上なら、鎮める方もそうだった。かなりの能力と労力を強いられる。

イセリーニエとて、マリオンにタカラッシュの身を託され、しかもタカラッシュ自身同じ同志として、逸早くミュルゼンの気を落ち着けて応戦したい。
そもそもな事に、タカラッシュにミュルゼンを鎮めきれる能力があれば、タカラッシュに代わって男と闘う事も出来た。けれども、そうもいかぬのが、本当に口惜しいところだった。

だから、イセリーニエも逸る気持ちで、必死に自らの気を上げ、ミュルゼンの気の制御にかかる。
溢れ出すパワーに、樹木に覆われやや薄暗い沢も、煌煌と光輝いている。

けれども、イセリーニエの必死の尽くしが功を奏したのか、程無くするとミュルゼンの暴走した気も陰りをみせ始め、その内へと次第に納まっていく。
一時はどうなるかと思えた窮地だったが、今は落ち着きを見せている。

「イセリーニエ・・・。自分のために、皆が・・・・」
「ミュルゼン! お前が卑下する事は何もない。全ては私の兄がした事だ! それに、大丈夫! 事態は好転している。それに、マリオンやタカラッシュの力を信じよう!!」

自分の無力さを咎めるミュルゼンにイセリーニエはそう呟き掛けると共に、未だ闘い続けている仲間の事を思い、自らの胸の内にも“信じろ”と言い聞かせる。
再びミュルゼンが力に引きずられないよう、イセリーニエはミュルゼンを胸に抱いたまま、今も離れられずにいる。
けれども、そんな二人のすぐ傍で、タカラッシュが刺客の男と好戦し続けている。このままいけば、大丈夫そうだ。
そして、姿が見えぬマリオンの事は気掛かりだが、ヤツは“タダでは起きぬ男”だ! 大丈夫だと再度言い聞かせる。

しかし、そう思うが早く、事態が再び嫌な方へと急展開を見せる!!

   * * *




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けいったんさん

> 事態が再び 嫌な方へと急展開って~~
> タカラッシュの方は、どうにかこうにか形勢逆転で 大丈夫そうだから
どうでしょうっっっ。ふふふ・・・っっ。
嫌な方へ…は全体的にという感じですっっ。ふふふ・・っっ。

> 一人で 闘ってるマリオン!?
密かに孤独ですよね~っっ。放って置いても大丈夫そうな人ですけどっっ。笑

まだ、次では決着もつかないのですけど、その急展開ぶりは分かると思います!!
週1回ペースの連載で、なかなか先に進まないですけど、訪問&コメをいつもありがとうございます!!
カトーリーヌやこの4人に負けじと、私も”完結”(まだかかりそうですけど)に向けて頑張りますわ!!

No title

ミュルゼンの”力”は、途轍もなく強くて魅力的なのに 使えないなんて~ 
辛いよね、歯痒いよね、ミュルゼン!ρ(-ω-、)ヾ(゚ω゚ )ヨチヨチ

ミュルゼンの”力”を封じ込めるし 刺客を送り込んで来るし
これも それも み~んな イセリーニエ兄が悪いんだから!

事態が再び 嫌な方へと急展開って~~
タカラッシュの方は、どうにかこうにか形勢逆転で 大丈夫そうだから
一人で 闘ってるマリオン!?
ガ・ガンバレー!ヾ(´д`;)ノぁゎゎ...byebye☆
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ばけもぐ

Author:ばけもぐ
隠れ腐女。オリジナルのBL小説を創作しています。
傾向;男臭い/強気受け多し。切ない系~爆笑系。リーマンもの、体先行型多し。ハピエン。
拙い作品ですが、楽しんでいって下さい。
尚、誹謗中傷、未成年の閲覧、画像の無断転用はご遠慮願います。


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