48.宝珠の夢(挿絵あり)

今度はその気の置けない男と、屋敷のある一角に閉じ込められてしまっている。
まさかこの自分が、敬い崇め奉っている我が師に、こんな仕打ちを受けるとは思いも依らず、只々絶望感に呆然自失と成り果てている。
しかも、自分はこうなっても、まだ! にわかにその師の謀反を信じられずにいる。
そうだ、長年敬い従い尽くしていたからこそ、壊れゆく弱い自分を無意識に守ろうとするがゆえに、それを受け入れられなくさせているのだ。

それなのに、目の前のこの男は慌てるわけでもなく、この期に及んでも飄々と、この状況を甘んじて受け入れている。
そして、タカラッシュを咎める事も、宥める事もせず、只静かに傍らにいるだけである。
だから、半ば八つ当たりのように、自分はこの男に向かって喚き立てている。
傷付いているのは自分だけだと・・・。
そして、堅く握り締めた拳を力一杯、この男の胸に打ち付ける。
痛い筈だろうが、避けるわけでもなく、やはり静かにその拳を受け止める。

「心が痛むだけ、辛いだけ、殴れ!」
「何故、そうして・・、受け止められる・・・。何故、“ほれ、言わん事なかっただろう?”、“真実だっただろう”と、責めない?」
「お前が一番分かっている事だ。その上、塩を捻じ込むような事は、俺の趣旨に合わない。今は落ち着くまで、そうしていたら良い」

そもそもこんな状態に陥ってしまう以前、この男に、自分が慕う師はもはや自分が知る師ではなく、当の昔に古書の化け物に肉体も心も乗っ取られてしまっているのだと、知らされていた。
けれども、タカラッシュにはこの男の忠告がにわかには受け入れられなかった。
なんせ、自分が接する師の姿は以前と変わらぬままであったし、どちらかと言えばこの素性も分からぬ男の言葉こそ、胡散臭く信じ難いものであったからだ。

けれども、皮肉な事に、事実は自分が思うものとは逆だった。

その師が尻尾を出した。
裏切られたタカラッシュの繊細な心は容易にズタボロと化した。けれども、そうなった今、いくら自分の浅はかさを後悔しても遅い。
ただ、目の前に居る、自分を助けるためにここに介入してきたこの男にあたり悪態を散々と付き通すだけだ。
それなのにこの男は、不平不満を言うでもなく、この不本意とも思えるタカラッシュの攻撃をじっと忍耐強く受け止めてくれている。

ああ、貧乏くじなだけだというのに・・・。

「だが、これで何もかもが仕舞になったわけではない! お前には秘めたる力がある!! 自分で知らず知らずの内にセーブしているだけで、この師をも凌ぐ能力だ。だから、今こそ立ち上がれ!」
タカラッシュとて、薄々とだが、自分の内に秘めるその力を前々から自覚していた。
けれども、博識を深めたい自分に、その力は不必要だと思えた。しかも、自分が目指す道を導いてくれるだろう尊敬する師の元に従事していた。だから、そこで日々精進し、勉学に励んでいさえすれば、全てそれで良いと思っていたのだ。

けれども、世の中、自分の意に反する。きれい事だけでは生きてはいけない。

師の心と体を乗っ取った化け物は、タカラッシュの秘めたる力を恐れながらも、表面上では気付かれぬよう偽りの姿で騙し続けては、取り込む好機を窺い着々とその力を蓄えていたのだ。
そして、今まさにその機が来た! まだ目覚めぬタカラッシュには対応できる程の力が、充分に溜まった。だから、面倒な事になる前に、逸早くその肉を食らって我が物にしようと、企んでいる矢先の事だった。

だが、そこにマリオンが現れた。
素性も分からぬ男だが、師の計画を覆す者である事には変わらなかった。
策は練れてはいなかったが、おちおちとはしてられない。だから、師は事を急いた。
タカラッシュの力を何としてでも手に入るためにも、手っ取り早く館に住まう稚児らの肉を片っ端から食らっては力を増強しようと、その邪魔となる二人を一旦館の奥の一角に閉じ込めてしまったのだ。

「この世は、都合良く出来たものじゃない。脈々と辛苦が連なっている」
タカラッシュは、マリオンに言われるがままに、その胸に顔を埋めると、暗澹とした現実を悲観して泣き喚くのだった。

そうしたかつての胸が張り裂けんばかりの辛苦とした思いに捉われていると、またその懐かしい夢の場面が切り替わる。

今度は目の前全てが、どろどろとした血塗りで塗り込められた黒赤一辺倒な世界となって、現われた。
自分の目の前で血みどろとなっているのは誰であろうか?
間違える筈もない! 化け物と化した恩師の御姿である。
もう人の欠片すら窺えぬ形相と成り果てた我が師は、稚児の腸(ハラワタ)を中から引きずり出し、骨と共にバリバリと音を立て、一心に喰らっている。
そして、その師のすぐ隣には、数十体もの子供の亡骸が横たわっている。どれもこれもぽっかりと腹に穴が開き、綺麗さっぱりとその臓器が無くなってしまっている。

そして、今しがた喰らっていた稚児は、誰か? タカラッシュも良く知る稚児の一人だ。取り分けこの子は、取っ付きにくい気質のタカラッシュにも、気構える事無くすっとその内に入ってきては、懇意となり頑ななタカラッシュの心も癒してくれる者だった。特に親しみを覚えていた稚児だと言っても過言ではない。

それが今は血の塊と化している。

そして、それを抱く師も、目は血走ってギョロリと外に剥き出し、髪の毛はザンバラと乱れている。口端から糸を引き垂れ下がってった血は、見るもおぞましい限りだ。
よくもこれ程までに醜悪な姿へと成り果てたものか・・・。
化け物のなせる業とはいえ、痛ましい事だ。
もはやこの現場を見せつけられては、救う余地もない。

化けの皮が剥がれた師は、タカラッシュをも、その身に取り込もうと迫ってくる。
それにタカラッシュは、かつての心の底から慕い敬っていた我が師といえど、認識を改め許すまじ者として、その攻撃から抗わずにはいられない。
魔方陣を呼び寄せると、師匠と自分との間に大きい砂の盾を作り、隔てる。

けれども、まだどこかで信じたくないという思いが邪魔立てして、タカラッシュの決意を甘くする。
大きな砂の盾も、さらさらともろく崩れ去っていく。
1つ、2つ、3つと・・・。
どれだけ盾を用意しても、意味がない。もろい盾は崩れ去るばかりなのだ。




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隠れ腐女。オリジナルのBL小説を創作しています。
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