49.宝珠の夢(挿絵あり)

だが、あわやもう後がないというところで迫りくる我が師が、その砂の盾同様にさらさらと細かい分子と成り果てて、その場に崩れ落ちていく。

そして、一陣の風が来たかと思えば、それと共に何もかもが消え失せていく。そして、タカラッシュの周りは、白く塗りつぶされた“無の世界”と成り果てるのだった。

それは、志していたものを失い、その師を失い、信じていた何もかもが無と成り果てたタカラッシュの心を反映しているかのような世界だった。
自らの命と引き換えに手に入れたのは、分子レベルまで細かく砕く力。そして、その師を殺めたのは、紛れもなく自分自身・・・。

・・・色即是空 空即是色

かつて師の書物で目にした御言葉・・・。
万物の本質は、即ち空・・・。そして、不変しないものは無いのだ。
それならば、自分も無に帰す日がいずれやってくる。

今、かつて培ってきた自分と師との関係は無に成り果ててしまったが、自分が無にならない限りは、その心にこれからもずっと存在し続けるに違いない。
もし自分がその境地に達する事が出来るならば、尊い存在と成り得る事が出来るのだろうが、凡人には甚だ難しい事だ。

今し、風穴の如く、ポッカリと空いてしまったタカラッシュの心は“虚無”が迫り来り、否が応にも苛まれる。なかなか埋まる事のないその風穴は、スウスウと隙間風を通しては、その心を冷たく冷やしては凍て付かせてしまう。
だから、迫った来たこの“虚無”に恐れ戦き、身を縮込ませる。

すると、そんなタカラッシュの前に、一人の男が現れる。

「タカラッシュ?」
ふいに声がした方を見上げると、マリオンだった。
マリオンは今し感じた恐怖を取り除くかのように、タカラッシュに向かって暖かく微笑み掛ける。

もはや自分には、この男しかいない!

そうなのだと確信して、縋り付こうとしたところ、自分が触れようとしたその先から、このマリオンまでもが砂となって、その場に崩れ落ちていく。
さらさら・・、さらさらと・・・・。
そして、その全てが一瞬にして砂と成り果て崩れ去ってしまうと、またしも一陣の風がやってきては、それと共に舞ってどこへとなく吹き飛んでしまう。
それで、世界はまた“無”と化してしまう。

そんな、馬鹿な・・・・。

今、無と化したものは、何だったのか?
自分が今まで大切としていた師よりも、もっと大切なものであったかのように思える。
もはや夢であるのか、ないのか・・・。
幻覚であるのか、ないのか・・・。
何もかも・・、判断が付きかねる。

しかも、先程師を失っても尚、心のどこかに残していた微かな余裕も、今は欠片さえ感じる事が出来ない。
只々、至極大切なものを失った事に対して、また押し寄せる虚無に、恐怖に、タカラッシュの心はどこまでも蝕まれていく。
そして、徐々に気がふれていくのだった。

マリオン・・、マリオン・・、マリオン・・・・・。

   * * *

剣を交えるイセリーニエとアシュリーニエの元から、鈍い金属音が重なり合う音が、幾何と経った今も絶える事無く続いている。
そして、ミュルゼンに挑みあえなく散りゆく者達の阿鼻叫喚とした喚き声も絶えるところを知らない。
本当にこの目の前の凄惨な情景は、先程から一向に変わる気配はない。
そして、それら以上に自らの内から溢れ出てる膨張した気もその際限を知らず、ミュルゼンの身の回りをとぐろを巻いてうねり上がっている。

今までにない暴走具合だ。

その恐ろしいまでの自分の気に引き付けられてか、はたまた激しさを増す戦況を聞き付けてきたからなのか、図書館の中に待機していたと思える明らかに他の者とは格の違う能力者が一人、二人、ミュルゼンの方へとやって来る。
これ程の力の持ち主、只者とは思えない。アシュリーニエの側近の者達に違いない。

まだまだこの暗澹たる状況は、最悪の方へと転がっていくようだ。

しかも、よくよく考えれば、戦闘に備え配備されていたそれらの者が自分の方へとやってくるという事は、裏を返せばマリオンとタカラッシュも中で苦戦を強いられているという事だ。
要は、中は既に配備された者だけで、十分に事足りているという事なのだ。
だからこそ、ミュルゼンのいるこちらが手薄だと感じた彼らは、挙(コゾ)ってこちらに登場したのだと、思わざるを得ない。

すなわち、自分達4人の戦況は、悪くも、苦しい状況であるという他ない。

しかも、更にまた戦況が悪くなる事もありうる。
というのも、イセリーニエだ。
側近達の登場に、先程からイセリーニエの気がミュルゼンの方に捉われ、散漫となっている。こんな集中力を欠いたままでは、アシュリーニエに仕留められ、取り返しのつかない致命傷を負う事になるやもしれないのだ。
そうでなくともイセリーニエは、アシュリーニエと闘う事に未だに躊躇いがあるのか、剣を取っても自ら仕掛ける事は無く、ただひらすら兄の剣を受け凌ぐだけなのだ。
イセリーニエは長年戦士として生きてきているが、そんな甘いところが抜けないでいるあたり、本当のところは戦士には不向きな性格をしているのだろう。だた能力としては戦士としての力を秀でて有しているというだけなのだ。

けれども、そんな事では、自分達がこの闘いを制する事はとても出来やしない。




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