15.執着

受験生の冬・・・。

利通は志望していた大学の合格が既に決まっていたというのに、侠耶にはもちろん、学校に内緒にして京都の大学を受験した。そして、見事、その大学の合格をもぎ取った。
とはいえ、先に決まっていた第一志望の筈の大学も、指定校や特別推薦、専願での受験ではなかったから、途中で志望校を変えて別の大学にしようと、別段不都合はなかった。

いや、そんな問題が起こらないよう、敢えて推薦入試を選ばなかったのだ。

要するに、これは端から侠耶の目を欺くために打った計画だったのだから、それも計算の内だった。

侠耶は自分がこの関東一円から容易に離れ難い事情がある事から、利通にも無言の圧力を掛け、自分の目の届く範囲の大学を受験するように強いていた。
そして、利通がよもや自分の絶対的力に刃向うとは思いも依らなかった侠耶は、利通が素直に志望校をそうした事に安心しては、一切疑う事をしなかった。

だから、上手くやれたのだ。
もしちょっとでも京都の大学を受験しようとしている事に勘付かれでもしていたら、受験する事すらままならなかったに違いない!
ゆえに、親も学校も周りもひっくるめて、全てに内緒で願書を出した末に実現した受験だった。

そして、その大学からの合格通知を受け取った利通は、その後両親を説得して、何とか入学金を納めて、その大学への入学の手筈を着々と整えた。
だが、もちろん、それで安心したわけではない! どこから情報が漏れるか分からない。

侠耶に知れば、苦労してもぎとった合格も、行く手を阻まれ、水の泡となって消えてしまう事のは目に見えていた!
早い内に手を打たねばならなかった。
だから、利通は学校側の協力を仰ぎ、卒業までの間内緒にしてくれるよう、固く約束を取り付けた。

おかげで、卒業式のその日まで、侠耶に知られる事はなかったが、その3年の時の担任は気苦労でたんと白髪交じりになったばかりが、10kgも身を細らせた。
とはいえ、侠耶の担任になっただけでも、それくらいのしわ寄せはくるものだ。だから、まさか秘密裏に利通とそんな約束がなされているとは、誰しも気付かなかった。

とはいえ、利通に同情を寄せ、そんな風になってでも力になってくれた担任の陰なる助けは大きい。

人の口には戸は立てられぬというのだから、普通なら漏れ聞こえていった筈だろうから、一見気弱に見える担任こそ口の堅い、実に信頼に値する人物だったか、良く分かった。
高校最後の担任が良い人物に恵まれて、本当に良かったし、救いとなった。

そして、晴れて卒業式となった日!

式が終わり、別れ際になって、利通はようやくその重大事実を侠耶に打ち明けた。
もちろん侠耶に何も告げずに京都へと去る事は出来た。だが、利通の中では一言侠耶に別れを告げる事で、その関係にキリを付けたかったのだ。そこは、利通の生真面目な部分の現れであったのかもしれない。
だが、受ける側にとっては酷である事に変わりない。
ゆえに、そんな心無いばかりの告白は、利通のエゴに他ならなかった。とはいえ、抑圧された高校時代を強いられてきた利通だからこそ、出た反動でもあるのだった。

それを告げられた侠耶は、しばし豆鉄砲をくらった鳩のように、信じられぬと、その場に茫然と立ちつくしていた。

しかも、言い逃げするなんて狡いのは百も承知の事だったが、言うならばそのタイミング以外考えられなかった。
更に、利通は式に参加していた両親をも利用した! 親が近くにいれば、侠耶も下手に手出しするのは出来ぬだろうと、踏んでの事だ!

だが、正直に正面切って言ったのでは、何が起きていたか分かったものではない!
それを聞いた侠耶が黙っている筈なんかなかっただろうし、算段を整える時間を与えていたら、利通よりも数倍キレる侠耶には敵いっこなかった。
恐らく、利通は当初の第一志望にしていた関東の大学に、泣く泣く通う羽目になっていたに違い。

だから、これが多少狡くたって、適切な方法だったと思う。

利通はさも親が待っているからとばかりに、侠耶にあっさりとした別れの言葉を一言! ”さようなら”と告げると、逃げるようにして高校を去ったのだった。
いつまでも無下な告白をした利通の背中を、刺すような鋭い眼差しでずっと睨み付けていた侠耶の威圧感を、利通は今でも忘れられない。

そして、侠耶からようやくからがらにも逃れてきた利通は、侠耶のいない地でその大学生活をそれなりに謳歌し、卒業後就学していたその地でそのまま就職を果たした。

利通が就職の地にこの京都に選んだ背景には、大学生活4年間でこの風土に幾分馴染み、わざわざ関東に戻ってまで就職を果たす意義を見付けられなかったのが、一つ。
そして、気楽な一人暮らしがすっかり身に付き、生家に戻って両親達と暮らすのが億劫になったのが、一つ。
そして、何よりも・・・。

“東京には、あの錦織侠耶がいる!!”

自分達は4年間も離れていたのだから、今更危惧する必要など、本当のところは全くないのかもしれない。
それに、あの狂おしいぐらいの執着ぶりも、若気の至りとでもいうかのように、今は影を潜めてしまっているかもしれないとも思った。

だが、リスクを冒してまで、就職先を関東に選ぶ意味はなかった。




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隠れ腐女。オリジナルのBL小説を創作しています。
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