34.執着

「私がこの世界に入りましたのは、若頭がまだ小学生の頃でしたから、若頭とは長い付き合いになります」
「・・・・・」
「ここに入って直ぐに若頭の世話係となったのですが、若頭は今と寸分違わぬ実にこましゃくれたガキでした。ですが、幼いながら、一筋通ったものを持っていました」
「・・・・・」

香山の声は低く染み渡るような落ち着いたものだったが、それにどう返したら良いのか分からない。
利通はただじっと天井を眺めながら、この昔話に耳を傾けるだけだ。

「今では私も多少落ち着きましたが、この世界に入った頃は心がやさぐれて、どうしようもなく荒れていました。ですが、若頭の世話係する機会を与えて頂き、若頭と接するうちに、私の進むべき道も照らされた気がします」
「・・・・・」
「というのも、若頭は幼き時分から、この世界を背負っていく覚悟がおありでした。そんな小さき若頭の背中に、私がこの世界で一から立て直す決心が出来たのです」
「・・・っ」

この男は、侠耶に対して、厚き恩義を抱いているのかもしれない。
そして、だからこそ侠耶が特別だとする利通に、こんな話を聞かせるのだろうか?

「坊ちゃん・・・、いや、失敬! 若頭は・・・」

そうだ、呼び名を言い直すあたり、この男が古くから侠耶を知るのは本当の事なのだろう。そして、古くは侠耶の事を“坊ちゃん”と懇意に呼んでいたに違いない。
だが、今の侠耶は“若頭”という役に就いている。その肩書がある以上、上下関係の規律に厳しいこの世界では、もはやそんな風に親しみを込めて呼ぶ事はないのだろう。それがケジメだ。
だが、この男も、当時の様子を回顧するあまり、思わずその呼び名が出てしまったのかもしれない。

そして、そんな香山の侠耶に寄せる心からの親しみを感じ取るにつけ、この香山がまぎれもなく他の舎弟達と画する程の親密な間柄である事が、良く分かった。
だからこそ、侠耶が過度の執着を抱いている自分の存在も、そんな侠耶の様子も、昔から良く心得ているのに違いない。

(彼は、話が分かるように見えて、俺の敵だ!)

利通は警戒し、この香山から顔を背ける。
だが、香山の方は、さしてそれを気にする事もない。そんな利通の反応を当然のように捉え、話の続きを尚も語る。

「若頭は生まれた時分から、世間様とは画する環境で育っています。ですから、多少ズレたところがあります。ゆえに、どんなに片岡さんの事を慕っていらしても・・。その・・、普通のアプローチの仕方を分かっていらっしゃらないというか・・・。どうにも掛け離れた事をしでかしてしまう節があります!」

今回の事、全てを指して言っているのだろうか?
利通も、侠耶が一般人でない事は、良く分かっている。今までにも、世間一般の常識が侠耶には当てはまらなかった事は多々とあった。

ならば、どういう事か?
侠耶がした事・・・。いや、これからする事成す事全てを、大目に見てやれとでも言うのだろうか?

侠耶が人格破綻しているとまでは言わない。けれども、そんな一般からズレた不器用な男に付き合っていける程、利通も人間が出来ていない。快くそれを受け入れる事なんて、到底無理な話だ。
侠耶のフォローにわまった香山のこの説得に、利通は唇を噛む。そして、それと共に、拳が白む程固く握りしめ、その憤りを何とかやり過ごす。

だが、香山も必死だ! 利通がそうだからといって、侠耶を思うがゆえに、その説得を止めようとはしない。
他人事だというのに、ここまで親身になる香山の侠耶に対する忠義心は、堅気である利通には考えも及ばない。

「ですから、片岡さん? だからこそ、若頭には誤解されがちなところがあります。そうした部分が、片岡さんの目には破天荒なものに映るのかと思います。それには弁解の余地もありません。ですが、片岡さん? 若頭が貴方の事をずっと大切に思っておられるのは、確かです。本当に、大切に・・、大切に・・・・」

深く静かな香山の声音は、しんしんと降り積もる雪のように、利通の心に響いてくる。
だが、こんな目に遭った利通には、到底納得のいかない事だ。説得されればされる程、刃向いたくなる。
利通は頭を横に強く振っては、香山の言葉をまるごと否定する。

「・・・・そうですか。やはり、お分かりなれないかもしれませんね? ですが、片岡さん? 聞いて下さい!!」
香山は何としてでも利通に聞いて欲しいのだろう。声を一目盛り大きくさせると、切に語りかけてくる。

「若頭は高校に入ってからというもの、随分と変わりました。昏いだけでしかないこの世界にずっと生きてきた若頭にも、光が差したとでも言いましょうか・・? 若頭は片岡さんと出会いで、心の拠り所となる“良き存在”を見付けたという感じでした!」

その心の拠り所が“利通”だと言いたいのだろうか?

では、利通の拠り所はどこにあるというのか? 侠耶に魅入られたおかげで、それを見つけに行く事すら出来なかったというのに・・・。
それなのに、この男はあえて侠耶のそれを自分に託したいとでも言いたいのだろうか?
利通はギリギリと奥歯を軋ませる。




“香山×侠耶”疑惑が浮上。この方(香山)から、皆様に一言!

「ちょっ、ちょっと、待って下さい? わ、私も相手を選びます・・。いや、選ばせて下さい!! どうして若頭と私がそんな風な疑惑を、持たれなきゃいけないのですか? よ~く考えて下さい!! そりゃ、若頭は美形ですよ! でも、大体からして、若頭の甘さの欠片もないあの性格でネコにおさまれると、皆さんは本気で思っていらっしゃるのですか!!! そんなわけ、ありませんよね? それに、私もタチです! ネコは、絶対に嫌ですっ。遠慮したいです。たとえ、若頭と1,2cmの差で身長が負けていようと、嫌です! 醜悪でしょう? ほら、見た目に毒です! それに、私には・・・。片思いですけど、想い人がいるんです。これが、若頭には似ても似つかないような可愛いらしい人なんです! だから、変な勘ぐりは止めて下さいね! 思わず吐きます! だから、くれぐれも、お願いしますよ!! そして、私が何故こんなに必死なのかは・・。よ~く分かりますよね? 単に若頭が怖いからです! はははっ・・」

(ああ、言っちゃったよ・・)

一言にしては多過ぎる彼は、決して寡黙な人ではないのでした! 笑
しかも、こんな風だから、どちらかといえば受けっぽいっっ。

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Author:ばけもぐ
隠れ腐女。オリジナルのBL小説を創作しています。
傾向;男臭い/強気受け多し。切ない系~爆笑系。リーマンもの、体先行型多し。ハピエン。
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