36.執着(挿絵あり)

だが、香山は締め括りとばかりに、「無理なお願いだとは重々承知しています。それに直ぐにとは言いませんが、どうか若頭の気持ちを汲んでやって下さい。お願いします」と、深々と頭を下げる。
こんな極道の中の極道という風体の男に、頭が畳に付く程までに深々と頭を下げられては、さすがの利通も気が引ける。
だが、頑な利通には、掛ける言葉は見付からない。ただ沈黙を守るだけだ。

そうだ、今の利通といえば・・。
“侠耶の気持ちを分かってやる事なんて、俺には到底出来ない!”
“それに、あんな男の気持ちなんて、分かりたくもない!”
それが本音だった。

いや、それどころか、侠耶の過酷な人生に巻き込まれてしまった自分の宿命を呪い、これからどうすれば良いのかと戸惑うばかりだ!
だが、目の前にいる男は、そんな事を面と向かって言えるような相手ではない。その上、この男の申し出も受け入れがたいと思っている以上、その場しのぎで了承するわけにもいかない。
そればかりか、”どうか、その頭を上げてくれ”と言う事すら出来ない。
頑なに顔を背けたままでいるしかない。

だが、それが利通のせめてもの”拒否の姿勢”だった。

香山はそんな利通にこの説得を諦めたのか、小さな嘆息を吐き掛ける。
そして、襖を開けると、利通よりも若干若い男を中に招き入れた。

「片岡さん? こちらの若い者は、舎弟分の”丸井”と申します。皆、こいつの事は”マル”と呼び付けにしております。ですから、貴方がこちらにおいでの際には、このマルに身の回りを世話するように言ってありますので、御用がありましたら気兼ねなく呼んで、何なりと申し付けてやって下さい!」

マルと呼ばれたこの青年は目がくるりとした、ヤクザ者らしからぬ可愛らしい風貌をしていた。彼なら、堅気である利通も構えずに接しられそうだ。とはいえ、気兼ねなしに用を言い付けるなんて、利通には出来そうにはない。
そういえば、朝の風呂上りの支度も彼がしてくれていたように思える。今袖を通しているこの浴衣は、誰のものというわけではなさそうだが、下着の方は新品のものが置いてあった。だから、このマルが自分のためにわざわざ調達してきてくれたのに違いない。

「片岡さん! よろしくッス。俺には遠慮なく、何でも言って下さい」

マルはにっかりとした人好きのする笑みを浮かべる。
こんなところにいなければ、どこにでもいる普通の好青年だ。
何でこんな青年が極道者に・・・。
利通には分かる筈もない。
だが、良く見ると、このマルには左人差し指の第一関節がない。
極道者というからには、指を詰めたのだろうか?
利通の痛ましげな視線に気付いた香山が、慌ててフォローに入る。

「いや、片岡さん! コイツの指(コレ)は違うんです! コイツのしている仕事の方で、ちょっと手違いがありまして、その時に失ってしまったんです! コイツにはこんな風におっちょこちょいのところがあって、ちょっと頼りないんですが、気の良いヤツですんで、贔屓にしてやって下さい!」

仕事の手違いとは、どんな手違いなのだろうか?
利通には分かりかねる事だが、香山が言う通り、その指の欠損については、それ程深い意味合いはないのだろう?
やはりこのマルに、無駄に気を張る必要はなさそうだ。

香山は利通にそう言うだけでなく、後ろに控えるマルに「おいっ、マル! お前も頭を下げろっ!」と、頭を軽く押さえ付け、深々と下げさせる。
そして、そんな風にマルの紹介を終えると、「では、御ゆっくりして下さい」とばかりに、二人してこの部屋を後にしていった。

   * * *

二人が去ると、途端に静けさが襲ってくる。
とはいえ、この屋敷には沢山の人間がいるのだ! 他から話し声が、全く聞こえてこないわけではない。
だが、元々職種柄寡黙な者が多いのか、無駄口を叩いて騒がしくするような者はここにはいない。静かなものだ。

だから、利通はしばらくの間、ぼんやりと過ごした。
本当は少しでも身体を休めたかったが、疲れている筈なのに、一向に眠れやしない。そして、そのままぼんやりと横になっているうちに、いつしか夜になっていた。
だが、マルが利通のためにと運んでくれた夜飯も、ショックが大き過ぎるためか、空腹な割りに喉を通って行かない。少し食べただけで、部屋の隅に退けてしまった。

また侠耶に知れたら、癪に触ってしまうかもしれない。

だが、辺りも先程以上に静まり返っている事から、恐らく膳を下げにくる事があったとしても、明朝の事に違いない。
誰も来る兆しが感じられなくなった事に、利通は安堵し、瞼を閉じる。
だが、一向に眠気が襲ってくる気配はない。まどろむだけだ。

ゆえに、夜半も過ぎ、本当に何の音も届いて来ないぐらいに辺りが静まり返った頃、利通の部屋に侠耶が物音も立てずにこっそりと忍び入ってきた事に、利通は逸早く気付いた。




syuutyaku03kouka.jpg

この挿絵は、この36の後半部分(***以降)~38に対応したものです!
とはいえ、どちらかといえば、37,38に関連のある挿絵かもしれません。
ですから、予告編みたいな形で用いさせていただきました! あしからずです!

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