72.執着+α

(だけど・・)

利通は、迷う。
自らの心だというのに、いう事を聞かない!
変わり始めたそれに、途方もなく揺れ動く。

だが、侠耶との未来に、“可能性“があるのも確かだ。

もちろん、自分達がどう転かも、まだ分からない。
侠耶も男なら、利通も男だ! 
今までそれに拘ってきたなら、これからもそうだろう。
それに、それが悪いとも、思わない。
だから、今までそれがために、侠耶の愛に目を背けて、いろんなものを見落としてきたが、それで間違いなかったとも思う。

何と言っても、それが利通だ。

それに、簡単にその拘りを捨ててしまえれば楽だが、そう出来ないのだから仕方がない。
しかも、侠耶が”好きだ”と分かったからといって、利通には自分が“どうしたら良いか?”、“どうしたいのか?”が、分からない。

けれども、その一方で、この変化に、自分の心をどこまで誤魔化していけるのかも、自信がなかった。
己の心一つだというのに、情けない事だ。
明らかになりつつある現状とは裏腹に、今も新たなる一歩が踏み出せないで、利通はもがく。

とはいえ、今日は疲れた・・。
もう、何も考えたくはない・・・。
それに、いくら考えたところで、自分の気持ち一つ分析出来ないなら、答えも出ないのだから、無駄な事だ。

利通は傍らの侠耶の鼓動を感じつつ、僅かな眠りに落ちる。
そして、侠耶は約束通り、利通を何事もなく自宅まで、送り届けるのだった。

   * * *

翌日、利通は疲れの残る身体で、出勤した。
一晩寝たからと言って、心の迷いがすっきりとなくなるわけでも、答えが出るわけでもなかった。
だからと言って、問題は利通の心一つで、現状が変わる事もないのだから、答えを急ぐ必要もない。

だが、そんな利通と、同僚の野崎は全く違った。

あんな不本意な目に遭おうと、捉え方も十人十色なら、順応性もそのようだった!
というのも、野崎はあの一件で、事もあろうか茨の道に目覚め、その事実をいとも簡単に受け入れ、消化まで果たしてしまったようなのだ。

社で会った野崎は、憔悴するどころか、一皮剥けた顔をしていた。
普通ならば、昨晩のアレはとても受け入れがたい出来事であった筈なのに、驚くべき事に、利通の姿を見かけると、晴れやかな表情で、野崎の方から近寄ってきたくらいだった。

だから、休憩がてらに食堂に誘うと、野崎はコーヒー片手に、昨晩の感想を照れくさそうにポツリと漏らした。

「あんな世界があるなんて・・・」

一瞬にして、場がピンク色に華やく。
野崎は、恋バナをする乙女さながらだった。
だから、昨日のアレが野崎にとっては余程良い事だったのか、一晩経った今でも、未だにその事に陶酔しているようだった。

利通としては、驚かされるばかりだ。
まさか昨日のアレに対して、そんな感想が出て来るとは、思いも依らなかった。
利通には、苦い経験だったと思うのだが、それを話す野崎の表情には何の躊躇も感じられない。野崎にとっては、余程刺激的なものだったのだろう。

人との違いを感じずにはいられない。

それに、野崎との間にあった、あの刺々しいわだかまりまでも、不思議となくなっていた。
秘密を共有してしまったからなのだろうか? 妙な親近感が生まれたように感じる。
それはそれで、副産物だといえるのかもしれない。

利通には酷だった接待も、悪いだけのものではなかったようだ。




【おまけ;利通を送り届けた後の車内(by香山の心のぼやき声)】

あー、あー、若頭は、また!!
あれ程、”好きだ、好きだ”と言って…。片岡さんを、また目一杯、いじめてきたんでしょう?
何も言わなくても、分かります!
どうです? その通りでしょ? あんな泣き腫らした目にさせて…。
本当、可哀相に…。あの人も、若頭に好かれたばっかりに、不幸な………。
ああ、本当! 稀に見る不幸なお人だ!!

確かに、利通を見たら、誰もが“平凡な容姿に生まれて、良かった“と、思うに違いない!

「香山? お前は、今、何を思った?」
「い、いえ…、何も……」
「そうか? 何か言いたそうだな?」
「っ…………」

侠耶は、香山の言葉に鼻をふんと鳴らす。
だが、香山もこの侠耶と、伊達に付き合いが長いわけではない。たとえギクリと肝を冷やしたとしても、それを表に出す事はない。有能な世話役だ!

けれども、心の中はいつも毒壺! 鳴門の渦潮も真っ青な程に、ドロドロと渦巻いているのだった。

ああ、この人はっっ。本当に、目敏いっ!!
いや、その目は、何ですか? 私の考えなんて、一目瞭然とばかりに…。完全に、見透かしていますね?
うっ…、うっ…。凄い睨みだっっ。痛いっ………。穴が開いたっっ。
でも、わ、わ、わ、わ、私は!!
”若頭はいつもこんな事ばかりしていますけど、今回の事もどうせまたその上塗りになって、片岡さんに目一杯嫌われるんです”なんて、思ってないですよ。
”いつもそのフォローにまわらなきゃいけない私達は、とんだ迷惑だ”とも、思っていないですよ!
更に言えば、”若頭だけ、いつも好き勝手して、片岡さんを最優先出来るなんて羨まし過ぎるっっ”などとは、口が裂けても言えませんっ!!
はぁ、はぁ、この人に関しては、文句は尽きないな…。

泣く子も黙る弁天の香山が、後部座席から鷹の威嚇を受けて、冷や汗を垂らす。

だが、あと何分の間、こうして侠耶と一緒にいなければならないのか?
侠耶の別宅が、すぐそこまで迫りつつあるというのに、至極遠いものに感じる。

ああ、神様、仏様! どうか、この私を、この悪魔の申し子から、お守り下さい。
アーメン! かしこみかしこみ、なんまいだぶぅぅ。




 /  / 初回 / 登場人物紹介(別扉) / 総合目次1(最新作~) / 総合目次2(旧作品)

いつも読んで下さり、ありがとうございます!
よろしければ応援ポチリして頂けるとうれしいです
にほんブログ村 小説ブログ BL小説へ
にほんブログ村

テーマ : 自作BL連載小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

ばけもぐ

Author:ばけもぐ
隠れ腐女。オリジナルのBL小説を創作しています。
傾向;男臭い/強気受け多し。切ない系~爆笑系。リーマンもの、体先行型多し。ハピエン。
拙い作品ですが、楽しんでいって下さい。
尚、誹謗中傷、未成年の閲覧、画像の無断転用はご遠慮願います。


当ブログ目次↓
dreamtripbana.jpg

ランキング参加しています!
よろしければ応援お願いします!
にほんブログ村 BL・GL・TLブログ BL小説へ
人気ブログランキングへ


現在の閲覧者数:


おすすめトラコミ&サーチ
にほんブログ村 トラコミュ ボーイズラブへ
ボーイズラブ
にほんブログ村 トラコミュ BLイラスト・漫画・小説何でも書いちゃう!へ
BLイラスト・漫画・小説何でも書いちゃう!
にほんブログ村 トラコミュ 小説15禁・18禁(性描写あり)へ
小説15禁・18禁(性描写あり)






サイト
dreemtrip.gif

最新記事
カテゴリ
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

最新コメント
QRコード
QR