78.執着

だから、侠耶みたいな男を愛するリスクも、今なら自と受け入れられる。
押し付けの愛を、ただ受動させられるだけだった自分には、なかった部分だ。
そして、こんな事がなければ、いつまでもそれを認められなかったかもしれない。

だから、良いにつけ、悪いにつけ、利通は今、大きく変わった。

とはいえ、こうした状況が、歓迎出来るわけではない。出来る事なら、何とか逃げおおせたいものであるのには変わらない。
けれども、そんな事は無理だろう。現状は、厳しい。もはや、逃げも隠れも出来そうにはなかった。
利通は深々としたため息を一つ吐く。そして、男達の問いに首を縦に振り、“Yes!”と返した。

だが、幸いな事に、利通さえ素直に応じるのなら、男達は今直ぐにここで危害を加えるつもりはないようだった。
それには、利通もほっと胸を撫で下ろす事が出来た。

男は顎をしゃくり、利通に外に出るよう促す。観光ガイドよろしく、前に立って利通を先導する気は、更々ないらしい。
とはいえ、腐ってもその筋の男だ。利通のような、取るに足らない者であっても、容易に隙の出来る背を敵に向ける事はしないのかもしれない。
侠耶も、そうだ。懇意な関係になった今も、背後を取らせない。

なかなか一歩の出ない利通を、若い男の一人がつまはじきにして、前に押し出す。そして、背後から威圧し、前に進むよう促してくる。
利通は仕方がなく、一歩、二歩と、重い足取りで歩み出す。
前方にあった人だかりは、利通達がやってくると、モーゼの十戒の如く、綺麗に左右に別れ、広々とした道を作った。
死刑を執行される囚人の如く、そこを男達に追い立てられ、利通は社を後にする。

そして、裏の通用門にまでやってくると、それにタイミングを合わせ、黒塗りの車が再びスルリとその前に滑り込んでくる。
ようやく異変に気付いた見張りの者達が、その場に駆け付けてくる前に、男達は利通を車の中に押し込んでしまうと、粟立たしくその場から車を発進させた。

   * * *

この界隈では、ここ近年、きな臭い出来事はほとんど起きていないという。確かに、TVニュースの項目にも、上がっていなかったように思える。
けれども、利通がこうして簡単に事件に巻き込まれてしまうのだ。公にはなっていないだけで、裏で誰かがいろいろと起こる事件を、揉み消しているだけの事かもしれない。
それに、侠耶を快く思わない者なんて、吐いて捨てる程いるだろう。たとえ組同士の抗争が起こる要素はなくとも、やはり利通が侠耶の弱点である以上、こうした危険は常に持って回るものなのかもしれない。

車に乗せられ、目隠しをされたまま、揺られる事、小一時間。
連れて来られたのは、都内の外れにある、どこかの倉庫街だった。
元々人が住むようなところではないのだから、閑散としていて、大声で人を呼ぼうが、助けなど来そうになかった。
利通は後ろ手に縄で拘束されたまま、車を横付したすぐ近くの倉庫内へ、追い立てられるようにして、連れていかれた。

倉庫内へ一歩踏み入れると、薄暗い室内には所狭しと段ボールが山積みにされていた。
何かの取引物品が仮置きされているのだろうが、大小様々で、貼られたラベルを見ると、海外からのものが大半を占めていた。しかも、東南アジア諸国からのものが多いように思えた。
とはいえ、こんな男達が使用している場所なのだから、どうであれ、正当な商品ばかりが並んでいるわけではなさそうだ。

しかも、倉庫は隙間の多い造りではあっても、陽が入ってくるわけではなく、まだ陽もあるうちから、冷え切っていた。外と変わらぬ寒さだ。
床から這い上がってくる冷気に、足先から体が冷え、感覚を奪い去っていく。
しかも、今の利通は、男達に追い立てられるまま、着の身着のままでここへとやって来たのだから、寒さをしのぐようなものは身に着けていない。尚更、凍てる。

奥の方までやってくると、主犯格と思える男が、利通の前に姿を現した。
ここで利通の到着を、今か今かと待ち構えていたのだろう。男が立ち上がったベンチ椅子の脇には、何十本もの煙草の吸殻が落ちている。相当、痺れを切らせていたようだ。

その男の齢は、50代後半に差し掛かったところだろうか?
腹がでっぷりと前に出、皮膚はサウナ焼けして、浅黒くくすんでいる。頭髪もかなり薄く、悪足掻きに塗り付けたポマードがベットリと張り付いていて、近くに寄らなくとも、その整髪料の香りが臭ってきそうだった。
とはいえ、何よりもその薄くなった毛の隙間から覗く生え際が、体内から湧き出した油分でギラギラと照っていて、醜悪だった。
もちろん、そんな見た目のイメージも去る事ながら、利通の拉致監禁を指示しただろう男なのだから、良い印象は生まれてこなかった。




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隠れ腐女。オリジナルのBL小説を創作しています。
傾向;男臭い/強気受け多し。切ない系~爆笑系。リーマンもの、体先行型多し。ハピエン。
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